「思い出の箱が開かないんだ」
困り果てて友人に相談する。
「なんの箱?」
「思い出が詰まった記憶の箱さ。箱の鍵が見つからないんだ」
友人は笑った。
「それじゃ探しに行こうか」
友人と鍵を落とした場所かもしれない場所を探し始めた。
学校、お互いの家、よく遊んでた公園。
どこにも落ちてない。
思わず泣きそうになると友人が困ったような笑顔で言った。
「もしかしたら……」
友人が、胸に手を当てると鍵が現れる。
記憶の箱がガチャリと開いた。
中には昔書いた未来への手紙が入っていた。
『友情は永遠に、鍵は心のなかにある』
三題噺「星空、スマートフォン、サイコロ」
「今日はもうお開きだな」
天体写真家は雲には勝てない。誰だって知っている。
星空の美しさを追い求めてこの業界に入ったが、理想の星空というものを撮ったことがなかった。撮れるのはつまらない星空ばかり。
私はため息を付きながら山の上に作られた観測所から降り、駐車場に戻ろうとした。
「――ん」
スマホが車の前に落ちていた。私のものではない。戻って観測所の受付にでも預けるかと思った時、画面に指が触れ、待ち受けが表示される。
「――――――!」
理想の星空だった。目が離せない――――
「はぁっ! はぁっ!」
呼吸を忘れていた。脳が混乱している。いけないと思いつつもスマホを調べる。電話帳には何も記載もなくチャットアプリすら入っていない。ただ写真フォルダには2枚画像があった。
「星空の写真とサイコロの写真……」
若干の気味の悪さを覚えつつもサイコロの画像をタップする。
「……サイコロの目が変わってるような」
サムネイルをタップした時に5だったものが3に変わってる気がする。
「あれ」
画像をスワイプすると星空の画像が写っていた。しかし先程の待受の画像ではない。理想的な星空ではない。間違えるはずがない。再びスワイプする。サイコロが1になっていた。GIFファイルかなと思った時、ふと月明かりが照らし出された。晴れたらしい、上を見上げる。
――知らない空が写っていた。星座も月の位置も何もかもぐちゃぐちゃな空。月が落ちてきそうなほど近い。
逃げなきゃ―― どこへ―― 半狂乱になりながら車に乗り込みエンジンを掛ける。とにかく月から逃げたかった。
スマホが鳴る。私のものではない。助手席に放り出されたスマホが鳴っていた。何かに突き動かされるように手に取る。
「サイコロを振って!」
頭が働かない。
「急いでっ!」
ようやく先程の画像のことだと気付いた。震える指先でサイコロの画像をタップして、スマホを外に放り投げた。そのまま逃げるように車を走らせた。
しばらくしていつもの空だとようやく気付いた。あれは何だったのか、夢でも見ていたのか。分からない。ただいつものつまらない星空が少し美しく見えた。
[星空]