I LOVE…。
その続きを
私は想像できない。
誰ともピースが合わなくて
昔から一苦労してきた。
何かを続けるということも
何かに夢中になることも
何かを好きでいることも
私には難しかった。
みんなは遊ぶこと、
本を読むこと、
ゲームをすることが好きだった。
私はずっと
ぼーっとしていて
時間がすぐに経ってしまう。
寝ているのと起きているのとで
あまり変わらないような生活に
飽きてきた頃だった。
人を
殺してしまった。
ずっとずーっと
怒ってばっかりの
私のお母さん。
その甲高い怒鳴り声が
いつもより耳障りだった。
だらだらと生きていて
恥ずかしくないのか、
なぜ周りの子達のように
得意なことがないのか、
何故もっと上手くできないのか。
家に帰ってきてすぐ、
玄関で声を上げられるものだから
すぐそこにあった花瓶を
ちょっと投げたら
死んじゃった。
動かなくなっちゃった。
真っ白だったパンジーが
真っ赤に染まっていった。
その時私は恋をした。
"Good Midnight!"
そしてドアを開け
外へ出た。
風が強くて
今にも吹き飛ばされそうだったけど
足取りは軽くて
でも鼓動は早かった。
I LOVEに続くのは
MEだ。
私は私に恋をした。
誰ともピースが合わないのなら
私と私でピースを埋めたらいい。
何にも本気になれないなら
全てぶち壊してしまえばいい。
今までのことが全て吹っ切れた。
今の私は
私が1番好きな私だ。
街へ着いたのは
何時間ほど前のことだろう。
ここどこ?今何時?
自動馬車の
AIの馬に尋ねる。
ここは中部地方の
山脈の傍です。
丁寧に地図まで表示してくれる。
何処を目指しているのかも
なんで移動しようと思ったのかも
もう忘れてしまった。
移動中はずっと眠っているから
毎日昼夜逆転どころではない
過剰な睡眠をとっている。
起きる度に
ここはどこか、今は何時かと
尋ねる私に
馬は文句ひとつ言わずに
質問したことだけ答えてくれる。
距離を詰めすぎない、
賢いAIは好きだ。
嫌いなAIはというと
馴れ馴れしく人の隣にすっと立ち、
あたかもずっと親友だったかのように
こっちのことを分かったように話す。
そんなAI。
道をガタンガタンと進んでいく。
馬はのそのそと歩いている。
途中水辺で止まり、
馬は自分が欲しい分だけ
勝手に水を補給する。
私もたまたま起きている時は
馬車から降りて水を汲む。
馬の燃料は水で
たった100mLで1日移動できる。
体内に貯水もできるので
1、2週間に1回で構わない。
それなのにこうして
水辺があると寄ってくれるのは、
多分私のためだろう。
私を生かすため。
"Good Midnight!"
友達とか家族とか
そういう関係では決して無いけれど、
言葉なんか無くても共にいる。
そんな
一定の距離にある
馬と私。
私は優しさで
教えてやってんだ。
いいか。
この時期の行方不明者は
ごまんといるんだ。
その多くが
星地図の読み方が
わからなくて
地図の読み方をしちまうんだ。
星地図の方角が
東西南北だと信じて疑わない。
ここはなぁ、
そういうちょっとした勘違いが
命取りになる砂漠なんだよ。
星月夜の砂漠ってのは
砂が全部星だから
方角が狂うんだ。
月しか出てないから
いつもぼんやりとしていて
空が澄んでいて月が明るいのは、
ある1週間しかない。
しかもその1週間には
でっかい三日月クジラとかいうやつが
遠くの方の海面から
何回も顔を出すから、
安心して寝れたもんじゃない。
星屑のように輝いてて綺麗なんて
最初のうちだけだ。
なんせクソでけぇからな。
"Good Midnight!"
師匠はたまたま出会っただけの
初心者の私に
少し強い口調だけど
1人でも行方不明者が減るように
注意事項や砂漠のことを
教えてくれた、
優しくて不思議な人だ。
ミッドナイトを
真っ黒と例えてしまっては
勿体無い。
藍色、青色、くすんだ色。
曖昧さと静けさと
寂しさ、冷たさを混ぜた
寒色系が似合ってる。
静かに夜と眠る田舎もあれば、
街灯に包まれて眠らない都会もある。
真夜中というのは
ミッドナイトというのは
どうしようもなく
楽しい時間であるべきだ。
午前2時、3時、4時と
時を刻む度に
いつもとは違う車通りや
ここがここじゃないような
真夜中の特権が見られる。
スマホを片手に
眠れないどこかの誰かもいれば、
受験に向けて一生懸命に
勉強をするどこかの誰かもいる。
この地球にいる
どこかの誰かが真夜中にしていることは
どれも違っていて、
その人に合った真夜中が
一人一人に広がっている。
"Good Midnight!"
今夜はどんな真夜中になるんだろう。
そんな少しのわくわくを胸に
藍色の気持ちで月を眺める。
いい真夜中。
家は
全てを集めた場所であって欲しい。
プラスの感情も
マイナスの感情も
全部。
でもあまり混ざりすぎると
安心と不安が一気に押し寄せて
渦に吸い込まれていく。
息ができないくらい
ぐるぐるして、
気持ち悪くて
ここにいたくないって
強く感じてしまう。
だからある程度は
外で捨ててくるしかない。
小さな箱にビー玉を入れすぎると
入らなくなるように、
家もまた
感情を入れすぎると
入らなくなったり
居心地が悪くなったりする。
それでも夜中には
少しずつキラキラと
屋根から感情が溢れ出ていく。
それは星が落ちているみたいで
とても綺麗。
外に出ても
家に帰れば大丈夫。
家に帰れば何とかなる。
そう思わせてくれるのが
この景色。
"Good Midnight!"
このキラキラは
暖かくて冷たくて
甘くて苦い。