おもてなしは最低限のマナー。
ホコリひとつ残さず
掃除すること。
私語厳禁。
常に敬語を使うこと。
下を向いて歩かないこと。
気分を害さないこと。
余計なことをしないこと。
過度に人を信じないこと。
嫌な顔ひとつしないこと。
まぶたが重い。
もう起きたくない。
涙で目は大きく腫れている。
今日も守らなきゃいけない。
生きるために、
明日を生きるために。
息を止めて
私は今から機械になる。
言うことをなんでも聞く、
文句ということすら知らない
無知な機械。
背筋を伸ばし
視線を40度ほど上に向ける。
息苦しい。
まるで海に沈んだ街みたい。
寝たくない、
明日が来るから。
起きたくない、
一日が始まってしまうから。
頭を抱えて今日も悶える。
鏡でいつも表情や
振る舞いをチェックする。
"Good Midnight!"
いい真夜中なんか
私にはもう一生来ない。
それでも手を合わせ祈る。
いい真夜中になりますように。
呼吸がほんの少し楽になる
少しマシな真夜中へ。
熱くて熱くて消えない焔。
ゴホッゴホッと咳をすれば
黒い煙が口から出てくる。
苦しいのに
熱いのに
この感情は消えることを知らない。
怒りとか悲しみとか
全部混ざってぐちゃぐちゃ。
ただ立ち尽くすのが限界で。
一日に何回も嫌なことが起きるのは
日常茶飯事だとは思う。
けど今日は我慢の限界。
あの時もこの時も
私は手を貸してあげたのに
あの人はなんで私を…。
あぁ、そうだ。
私は見返りを求めて助けるんだ。
お前は私に借りがあるんだ。
返せよ。
返せよ!
頭の中で私じゃない私の声が
大声で叫ぶ。
耳がキーンとする。
"Good Midnight!"
嫌われたくなくて
いつの間にか
つまらない人間になっていて
一丁前に焔なんか抱えちゃって。
世界はどうやってできたのか。
世界に果てはあるのか。
神はいるのか。
神がいるとしたら
神はどうやって産まれたのか。
未知の深海には何がいるのか。
説明ができない現象は
どんな説明ができるのか。
解読されてない文字で書かれた本が
解読されたらどうなるのか。
何度か消えた高度な文明を
復活させられたら具体的にどうなるか。
終わらない問い。
それらの答えにたどり着いた時
私はこれまでの私より
少し賢くなって、
でもただそれだけで。
気になることがわかったからといって
全てが激変するわけではない。
例えば友達の好きな人を知ること、
それと何ら変わりは無い。
友達か世界かの話。
世界の秘密を知るだけ。
もちろん他者に話せば全ては変わる。
でも友達の好きな人を言いふらしていたら
嫌われてしまうだろう?
だから世界の秘密も
多分言いふらさない。
言いふらさない方がいいと
知った私はそう肌で感じる気がする。
"Good Midnight!"
創造と崩壊の連鎖。
それは文字通り鎖のように連なり、
世界に不思議と希望と絶望を与える。
悪魔。
それは仏道修行を
さまたげる魔物とされる
人を悪に誘う存在。
なんとなく
悪魔は他人のことなどお構い無しで、
全てが自己中心的・傲慢で、
人を堕落させたり
時には犯罪の手助けをしたり
マイナスなイメージをもつだろう。
しかし、少女は違った。
短所より長所を好み、
投票・少数派の尊重重視。
人を堕とすなんて無理ですと言わんばかりの
人助け三昧の救い。
悪魔の中でも群を抜いた変わり者で
なぜ天使ではなく悪魔なのか
というところまで来ている。
本来、
魔界では自己殺人が一番良いものとされ
悪魔は魔王の使者として
自己殺人へ導くという
使命的なものがあるのだが、
少女は自己殺人を救ってしまう。
生きることこそ悪と向き合うことであり
悪に立ち向かうためなら手助けをする、という
なんとまあ
お人好しすぎる使命的なものを持っている。
堕天となるのも時間の問題だと
他の悪魔は関わることを辞め始めた頃、
少女は魔王様に頼まれ
一人の若者と出会う。
若者は少女の事が見えるようで
人見知りな少女に
毎日たくさん話しかけていた。
若者は少女を笑わせたいようで
元々多かった口数が更に増えていった。
口が達者になるということは
人を堕とし込みやすくできるということ。
少女も少し悪魔らしくなってきたと
魔王様も喜んでいた時だった。
若者が事故で亡くなった。
もちろん事故ではない。
若者は自宅で紐をぶら下げ
自己殺人をした、
つまり若者自身が殺したのだ。
"Good Midnight!"
真っ青な空に
風で揺れる羽根。
黒くてコウモリのような
悪魔と呼ばれる少女の羽根。
泣きながら今までの話が楽しかったと
目一杯墓の前で語り、
最後ににっこりと笑った。
それは若者が
ずっと少女にさせたかった表情だった。
私の中にある秘密の箱。
それは墓場まで持っていくと決めた箱。
出かかって食い止めた
言わなくてもいいこと、
大声で大嫌いだって
言ってやりたかったこと、
叶わないと初めから思っていて
想うことすらやめたくなったこと。
握り潰せば息がしやすくて
箱に入れれば生きやすかった。
私はただ幸せを感じたかった。
なのにクソみたいな性格は
クソみたいな世界に合わないらしかった。
寂しさと箱ばかり増えて、
ポッカリと穴が空いてくる。
そこは風通しが良くて
埋められなかった。
私と同じ思いをしてる人は
きっとそこら中にいるし、
なんなら本の中にもいる。
なのに客観視した時
自分が1番苦しそうに見えるのは
自分だけの苦しさがあって
それが絡まって解けないから。
"Good Midnight!"
涙は目が腫れるだけの水だから
なるべく流したくない。
でも今日だけは
溢れさせてあげようと思った。