羽根を怪我した
オオワシの君。
私の家の前で寝そべってたから
手当てしてしばらく
私は君を家に置いておいた。
君は飛べないから、
くちばしを器用に使って
私を手伝ってくれた。
朝起こしてくれたし、
ご飯を作る時に
必要な物を取ってきてくれたし、
私が寝る時はいつも横で寝てくれた。
野生のオオワシって
こんな簡単に人に心を開くんだなぁと
少し勉強になった。
何のための知識か知らないけど。
私は夜が怖かった。
でも君となら怖くない。
君は鋭いくちばしと眼差しを持っているし、
治りかけの羽根も持っている。
それだけで
私は君となら何でも出来る気がした。
だから君の羽根が治った時は
野生に帰すのが寂しかった。
元々の環境に帰してあげるのが
一番君のためになるのに。
君も私と離れるのを察したのか
何かを目で訴えた。
数ヶ月一緒に過ごしたから分かる。
うん、そうだね。
こんなクソみたいな私の世界から
君が居なくなっちゃったら。
君が居なかった時、
どうやって生きていたか
もう分からないんだ。
"Good Midnight!"
大きな羽根を広げた君は
いつにも増して
かっこよくて可愛く見えた。
私は君に手を差し伸べる。
君はヒヅメの生えた足で私の手を取る。
私にも大きな羽根が生えたみたい。
月が輝く真夜中、君と飛び立つ。
きっと忘れない。
だって米が高い!
絶対忘れない5キロ5000円代という文字。
ご飯派が一気にパン派に代わる瞬間だと
強く感じた。
あー、そういえば
私そこまでご飯好きじゃなかったっけ。
そもそも何かを食べるって行為が
嫌いだったっけ。
じゃあ私この米騒動
こそまでか。
そんなことを考えながら
財布とにらめっこ。
今月は水道代がやばいんだよなぁ。
湯船に浸かりながら
今度はスマホとにらめっこ。
このまま溺れて
米の値段も、水道代も
何もかも関係ない所へ行けたら
どれほどいいだろう。
"Good Midnight!"
ブクブクと
息が苦しくなるまで
顔を沈めたまま思った。
なぜ泣くの?と聞かれたから
雨が降ってるからと答えた。
私の泣いてるところって
いちばん弱くて
いちばん醜くて
とても人に見せられないものだから。
泣きたい時に泣けないから、
涙貯金を始めた。
雨が降ってたら泣く。
涙を雨で誤魔化して
後の泣きたくなる時の分を今泣く。
そんなにすぐ泣きたくなるもんなの?って
思うかもしれないけど、
意外と毎日泣きたくなることはある。
舌を噛んじゃったこと、
人前で盛大に転けたこと、
画面の見すぎで頭が痛くなったこと、
小指をぶつけたこと。
小さなことで泣かないのは
強くて綺麗だと思う。
でも私は泣いちゃいそうになるから
涙貯金は必要不可欠。
真夜中なんか特に泣きたくなる。
私が人前で泣くのは
もう最後でいい。
"Good Midnight!"
いつか雨が降ってても
笑ってここにいられるように。
足音がトントントン。
耳障りなはずなのに
何故かリズムが心地いい。
毎日快眠で
寝不足は足音で治った。
あー、
病院行って金払って
薬飲んでた私が馬鹿みたいだ。
タダで治るなら
もっと早く足音を聞きたかった。
そういえば子どもの頃から
誰かが家の中を歩いた時の足音が
背中をトンっとする時の音に似てて
安心していたなぁ。
一人暮らしを始めてから
足音は自分のしか聞かないから
屋上で誰かが歩くだけで
こんなに…。
"Good Midnight!"
雨が沢山降る夏の夜のこと。
終わらない夏に
閉じ込められた人がいるらしい。
いや、正しくは
蛍と共に
夏に閉じ込められに行った人、かな。
夏が終わりかけた時に
蛍がいなくなるのが嫌で、
捕まえた蛍と夏に閉じこもった。
正直私は
その人のことの名前も
どんな姿かも知らないけど、
行動力が羨ましいと思った。
私にも日常の全てを捨てて
好きな物と過ごす行動力があったなら、
きっとその人とは仲良くなれたし
分かり合えたと思う。
でも、
臆病で行動力がない私は
夏が終わりかけるここにいる。
ここは辛い。
辛いはずなのに何故か私は
閉じこもらなくて良かったと思った。
面白い物がたくさんあったんだ。
可愛い物も、綺麗な物も。
興味のない物ばかりだったのに
世界が輝いた。
甘くて甘い。
"Good Midnight!"
好きな物と過ごすために
閉じこもるのも羨ましく思う。
それでも
私はまだここで
キラキラ光る甘い物を
探し続けたい。