半袖。
珍しい服装だった。
だってここじゃあ、
真夏でも10℃を下回るから。
白雲峠は深い峠だから
日陰ばかりで中々暖まらない。
1ヶ月ぶりに機織り機を使っていた時、
狐に似た人が
少し奥の方を見ているのが見えた。
視線の先には
半袖の白いシャツに
ハーフパンツ、
長い黒髪の少女がいた。
早朝だったから
ネブラスオオカミはまだ寝てて、
襲われる心配はないんだけど、
霧が少し出てたから
危ないと思ったのかな。
狐に似た人は駆け寄って
道案内をしてた。
けど狐に似た人は
すぐに困り眉になった。
白雲峠を越える人は
今までに何人かいたが、
どうやら用があるのは白雲峠のよう。
ネブラスオオカミは
起こしちゃ悪いし、
狐に似た人はテキトーに
趣味でほっつき歩いてるだけだから、
私にその少女の道案内が託された。
少し分厚めのカーディガンを貸して、
ランタンで霧をかき分けながら進むと
少女は目的地がここだと言って
私を引き止めた。
そこはひっそりとした
滝がある池で
最近の私のお昼を食べるスポットだった。
"Good Midnight!"
少女は池に飛び込んで
ガラスの花を咲かせる方法の紙を
池の底から取って戻ってきた。
もしも過去へと行けるなら
私は沢山の歴史を見たい。
けど
お腹の中に
針を入れられたように痛くて、
お腹をへこませることも、
膨らませることも出来ずに
一点を見つめながら耐えるしかない
苦痛の和らげ方は知らない。
だって自業自得だ。
多分昔の人もそうする。
暑かったら急いで熱を冷まそうと、
冷たいものをかき込んで
一気に冷やす。
何のための汗かも知らずにね。
あー人間って大変。
恐竜とかだったら
暑い時どうしてたのかな。
"Good Midnight!"
また私は耐える。
もっといい過去見れたらな。
True Loveなんか
この世にあると思う?
無いからこの言葉があると
私は思ってる。
空想の生き物に
名前があるように、
True Love、つまり真実の愛も
空想のものなんじゃないかって。
だって愛なんか誰にも見えないし、
どんな形でも
その人にとっての愛かもしれないし、
愛されたいって思っても
周りが気づいてくれるわけじゃないし、
無償の愛をあげたいって思っても
相手にとっては
迷惑でしかないかもしれないし。
すごく難しくて
とても真実の愛なんて
あると思えない。
絵本に出てくる
ユニコーンみたいだ。
絵本といえば、
夜が似合う
いい絵本があった。
星の王子さまっていう有名な本。
王子さまは
バラをどんな気持ちで愛でてたっけ。
バラを自分の星にほったらかしにして
地球でどう思ったっけ。
地球のバラに
何を気付かされたんだっけ。
これを思い出した時
真実の愛とやらが
存在するんだと、確かにあるものだったと
胸を張って言えるかな。
"Good Midnight!"
愛したくて、愛されたくて、
真夜中をただ眺めていたい
そんな日だった。
Hi。
今夜は私がお隣でも構いませんか?
あら、初めてのご来店だったんです?
ここは仮面パスタ店、
名前のとおり、
仮面をつけた店員がいる
パスタ専門店でございます。
あぁ、たまに暇な店員が隣に座るんです。
すみませんねぇ、お客さん初めてなのに
私勝手に座っちゃいまして。
いえいえ、事前に説明していなかった
こちらの責任でもありますので。
あらあら、
今夜はまたお仕事があって
食べる時間がほとんど無いんですね。
大変ですねぇ。
あ、すぐそこの会社なんですか。
ええ、私は23時から朝までいますよ。
お昼は店が閉まってしまうので
またお越しくださるなら、
夜しかないのですが…。
ありがとうございます。
はい、私の他にも何人か店員はいます。
個性的な方ばかりなので
是非一度お話してみてください。
では、またいつか会いましょう。
"Good Midnight!"
星を追いかけて
世界を3周くらいした私の話。
私がそれほど幼くない頃、
流星群を見るために丘に行った。
たくさん星が降っていて
すごく綺麗だった。
少ししてから
虹色の光を振りまいて
太陽を単純化したような形をした、
一番綺麗な流れ星を見つけた。
あれは幸せそのものかも。
あれがあれば幸せで、
あれについて行けば幸せで。
そう思ったら
勝手に身体が動いた。
自分に出せる最高速度で
走って追いかけていた。
星はだんだん
流れていくスピードが落ちてきて
歩いてでもついていけるくらいになった。
そこからはラッキーで幸せなことが続いた。
道を見ると毎日お金が落ちていて
そのお金で食べ物も
飲み物も寝床も手に入った。
たまに降ってくる星の虹色の光は
小さな光の人になって
服やトランクを出してくれた。
星を追いかける前は
ずっと変わらなくて
味気ない毎日に正直嫌気がさしていた。
だからこんな、
毎日違う場所を歩いて
景色を眺めて旅するのは
すごく楽しかった。
何年か経った時、
世界を1周したことに気づいた。
あの丘が見えたから。
星はまだまだ流れていく。
私はこの楽しい毎日が
日常となって
当たり前だと思うようになっても、
追いかけたいと思った。
私は迷うことなく丘を過ぎ、
また星を追いかける。
"Good Midnight!"
世界を3周くらいした頃、
ちょうどあの丘で
星は降ってきた。
そして今までよりもっと多くの
虹色の光を振りまいて
もう大丈夫、と
私を安心させてくれるような
そんな間隔へと誘った。