るに

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4/20/2025, 2:30:59 PM

それは月が見えなくて
星明かりがよく見えた暑い日だった。
一番よく見える星を
摘んで食べて
1年の健康を祈る星狩まつり。
毎年村の人たちだけで行われる
小さな祭りだった。
屋台や花火もなくて
ただ星を食べるだけ。
でもその日は何か違った。
月が見えてた。
月の光が強すぎて
星なんかどこにも見えなかった。
ってことは無く、
前と変わらなかった。
月も見えないし、星は明るい。
何か変わってればいいのになっていう
ただの私の願望。
人っていうのは
日常や普通に慣れると
それとはまた別の新しいものを
求めるようになってくる。
私もそう。
私は星狩まつりで
月を食べてみたいと思った。
大きくて丸かったり、
真っ二つになっていたり、
先がとんがっていて
痛そうなのだったりする月が
すごく魅力的に見えた。
どんな味がするんだろう。
柔らかいのかな、硬いのかな。
近くで見たら黄色じゃないのかな。
気づけば毎年月を食べたくなっていた。
村の人はそもそも
月を食べるという選択肢がなかったようで
私が月を食べてみたいとポロッと口にすると
ものすごく驚いた顔で見てきた。
ああ、ここじゃあ私
ただの変人なのか。
それがわかった後は前ほど
食欲は湧かなくなった。
同調圧力って言うのかな、
私にはここでの居場所が全てな気がしたから、
変なことはしないでおこうと
全力を尽くした。
しかし数ヶ月前に引っ越してきた
歳が私と近い少女が
初めて星狩まつりに出た時、
月を見ている私が
うかない顔をしているのを見て
手を引いて海岸まで連れて行ってくれた。
そしたら、
星もいいけど、月も美味しそうだよね!
私、食べてみたいなぁ。
と言った。
"Good Midnight!"
ただ意見が一致しただけ。
それだけだけど
私には光に見えた。
こそっとしか自分のことを言えなかった私より
ずっと堂々としてる少女の方が
説得力があったからだろう。
願望が変わった。
私の食欲は必ず戻る。
私はこの少女と月を食べたい。

4/19/2025, 6:01:50 PM

ある峠の周辺に
狐に似た人がいるという噂がある。
なんでも、
狐目でそれはそれは美しい女の子なんだと。
私は一度でいいから会って見てみたいと思い、
その峠の近くまで行った。
でも霧が出てて
先の道も見えずらくて
カンペキに迷子になった。
ウロウロしていたら
お姉さん、ちょいとそこのお姉さん。
という声が聞こえた。
後ろを見ると
真っ赤な着物を着た綺麗な女の子がいた。
狐に似た人だと瞬時に理解できるほど
狐に似ていた。
迷子になってしもたん?
せっかく聞いてきてくれたのに
私は見とれていて
すぐには口を開けなかった。
私が教えたるよ。
道、ほんまにすぐそこにあんねん。
と、手を引っ張って案内してくれた。
その後は
峠の「すぐ」は信用しちゃダメなことがよく分かった。
30分近く歩いても道は出てこない。
狐に似た人と私の落ち葉を踏む音だけが
聞こえていた。
ずっと無言はさすがに気まずいから
私は狐に似た人に会いに来たことを話した。
あらぁ、そんな噂立ってはんの?
少し驚いた様子でそう言っていた。
ほんなら、お姉さんが行方不明にでも
なってしもうたら、
私が真っ先に疑われてまうねぇ。
それはあかんなぁ。送り届けななぁ。
狐に似た人がそう言った途端、
霧が晴れて目の前に道が見えた。
道に出ると真っ赤な夕焼けがよく見えた。
私、暇を持て余してんねん。
せやからまたいつでも来てな。
"Good Midnight!"
まだ話したいことがあった。
もっと一緒にいたかった。
そんな気持ちが溢れて止まらない。
けど、狐に似た人の方を見ると
夕焼けでできた
狐の形をした影絵が
そこにはあった。

4/18/2025, 6:47:59 PM

ここまで苦労してきた。
ただ毎朝電車に乗って行って
毎晩電車に乗って帰ってくるだけの
つまらない毎日。
でも私は1歩踏み外して
非現実へと歩いていきたかった。
そんな願いは日常に含まれる。
だから私は本当に1歩踏み外してみた。
部屋の雰囲気も変え、
自然を感じる部屋にした。
それから週に3回
現実を感じない場所、
非現実的な場所へ足を運んだ。
踏み外すことは
安定を捨てるということ。
勇気もいるし、
今後のことを考える時間もいる。
苦労は付き物。
私はこれから
日常からのはみ出ものとして
好きなように非現実を歩き回る。
これが私の踏み外した後の
最初の1歩目。
"Good Midnight!"
っていうのが
通りすがりの人の物語。
物語の結末はみんな決まってるけど
さて、
さっきみたいな
どこかの誰かさんの物語の始まりは
どんな風になっているんだろう。

4/17/2025, 4:06:35 PM

静かな森に
静かな情熱が響き渡る。
「気」だ。
扱える者には肉体強化やIQの上昇など
気で出来ることが豊富で使いやすいが、
扱えない者は変に気を出して
山火事を起こしたりする。
情熱がひとり歩きしたり、
イメージがあやふやだったりね。
私は扱えこそしないが、
暴走はしない。
私の気は人畜無害なのだ。
だから私は使えるようにするため
たまに森で練習をする。
全身に行き渡る気を想像して
手先から出てくるこの気を
どうしたいかイメージ。
そして手でどうかしたい所に触れる。
すると気は力を貸してくれる。
でも私の気は一向に力を貸してくれない。
コツを教わっても効果なし。
一般人より
少しだけ上ということになったけど、
正直使えるのか使えないのか
はっきりして欲しい。
"Good Midnight!"
全く…。
気とは気が合わないようだ。

4/16/2025, 3:45:05 PM

あーあ。
またやっちゃった。
川で洗濯するはずが
どういう訳か滝へ来てしまった。
勘違いの多い私の人生。
やろうとしたこと、
言われたことを
頭で勝手に別のものに変換してしまう。
メモをとってもメモを無くす。
こんなんで一人で
やっていけるわけない。
もちろんその通りだった。
最初の頃は草原の川近くで
暮らしてたけど、
ネブラスオオカミが
たまたま通りかかった時に
私を哀れに思って
この白雲峠まで案内してくれて
ここでなら輝けるかもよ?
と言って去っていった。
その言葉は絶対信じないようにしてた。
結果はわかりきってた。
私が一人でやっていけないなら
大人数でも一人で足を引っ張るだけだ。
非力なので力仕事もできない。
不器用なので服を作ることも、
人見知りなので団体行動をすることも
私にはできなかった。
そんなある日、
遠くの声に耳を傾けると、
誰かが読んでいて
そっちの方向に行くと
一人のネブラスオオカミの少女が
私に話しかけてきた。
ボクさ、キミにぴったりの場所知ってるんだけど。
ついにここから追い出される時が来たか。
そんな考えは嫌でも浮かんできた。
けど少女はにこっと笑い、
白雲峠の中にあるんだよ。
顔に出てたのだろうか。
私を安心させるためにそう言ってくれた。
目を瞑れと言われたので
目をゆっくり閉じると
まぶたの裏に古い鳥居が見えた。
もう開けていいよ、そんな声が聞こえたので
目を開けると
そこにはまぶたの裏で見た鳥居と
同じものがあった。
奥には神社があって、
一つ目の描かれたお面、紙、竹傘をつけた人が
30人ほどそこにいた。
さっきの少女は
急に目の前に現れたと思うと
私に紙をつけた。
意外にも一つ目のところから目が見えて
転ばずに済んだ。
いきなりみんなが
手から杖を出して
常闇幻日。
そんな声が聞こえたかと思うと
今度はみんなどこかへ行ってしまった。
杖さえあればついていけるのかと
20分ほど頑張って手から杖を出すことに成功。
詳しくは言えないけど
足を引っ張ることなくついていけた。
"Good Midnight!"
勘違いする考えも私も捨て
そっと寄り添うように昔の匂いがしてくる。
ここに来てよかった。
ネブラスオオカミに会えて、
白雲峠に来れて、本当に。
輪廻を廻す私たちは
今日も常闇幻日と。

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