それは月が見えなくて
星明かりがよく見えた暑い日だった。
一番よく見える星を
摘んで食べて
1年の健康を祈る星狩まつり。
毎年村の人たちだけで行われる
小さな祭りだった。
屋台や花火もなくて
ただ星を食べるだけ。
でもその日は何か違った。
月が見えてた。
月の光が強すぎて
星なんかどこにも見えなかった。
ってことは無く、
前と変わらなかった。
月も見えないし、星は明るい。
何か変わってればいいのになっていう
ただの私の願望。
人っていうのは
日常や普通に慣れると
それとはまた別の新しいものを
求めるようになってくる。
私もそう。
私は星狩まつりで
月を食べてみたいと思った。
大きくて丸かったり、
真っ二つになっていたり、
先がとんがっていて
痛そうなのだったりする月が
すごく魅力的に見えた。
どんな味がするんだろう。
柔らかいのかな、硬いのかな。
近くで見たら黄色じゃないのかな。
気づけば毎年月を食べたくなっていた。
村の人はそもそも
月を食べるという選択肢がなかったようで
私が月を食べてみたいとポロッと口にすると
ものすごく驚いた顔で見てきた。
ああ、ここじゃあ私
ただの変人なのか。
それがわかった後は前ほど
食欲は湧かなくなった。
同調圧力って言うのかな、
私にはここでの居場所が全てな気がしたから、
変なことはしないでおこうと
全力を尽くした。
しかし数ヶ月前に引っ越してきた
歳が私と近い少女が
初めて星狩まつりに出た時、
月を見ている私が
うかない顔をしているのを見て
手を引いて海岸まで連れて行ってくれた。
そしたら、
星もいいけど、月も美味しそうだよね!
私、食べてみたいなぁ。
と言った。
"Good Midnight!"
ただ意見が一致しただけ。
それだけだけど
私には光に見えた。
こそっとしか自分のことを言えなかった私より
ずっと堂々としてる少女の方が
説得力があったからだろう。
願望が変わった。
私の食欲は必ず戻る。
私はこの少女と月を食べたい。
4/20/2025, 2:30:59 PM