透明なビニール傘を空に開く。
パラパラと傘にあたる雨の音は
聞いてて心地いい。
けど最近雨ばかり。
乾燥している冬には嬉しいことだが、
寒すぎる。
ひんやりとした風が
私の上着を通り抜けて
体温を奪って逃げていく。
吐いた息は白く冷たくなった。
川の水が増えて
頭が痛くなってくる。
近くのドラッグストアで飲み物を買い、
一息つく。
ふと、
紫陽花が咲いてるのを見つけた。
紫陽花は6月に咲くものだと思っていたが
1月に咲くものもあるんだなぁと
近づいてみた。
奥に道が続いていて
うっすらと霧がかかっている。
好奇心が私の足を動かして
進んで行った。
すると開けたところに
紫陽花が満開で沢山あって
思わず傘を下ろした。
雨続きだったからか、
少し地面が浸水していて
より綺麗に紫陽花が見えた。
歩いてるだけで落ち着く。
ウユニ塩湖に似ていて
秘密の庭園にも見えた。
ずっとここにいたくて、
でも帰らなきゃ行けなくて。
このまま時間が止まればいいのになんて
思ってしまって。
私にお気に入りの景色をくれた紫陽花には
私のお気に入りの言葉をあげようと
紫陽花にしか聞こえないような小声で言った。
"Good Midnight!"
帰り道、
明日は晴れろ!
そういって冬晴れ願う私は
そっとビニール傘を閉じた。
空を鳥みたいに飛べたらなぁって言う何人かに
会ったことがあるんだ。
人生に終止符を打とうとしてる人達、
もしくは純粋に空中に浮いてみたい人とか
そういう人を見てきたんだけど
私は寄り添い方とか知らんし、
優しい言葉をかけて
相手は辛いのに
自分の無責任で延命させるのも可哀想だし、
最近は
そうなんだ。で終わらせてる。
寂しくはなるけど
結局自分で決めてかなきゃいけないから。
1の意見として捉えるとしてもね、
あんまり参考にはならないもんで。
鳥ってそもそも
自由なのかなって所からなんだけど、
羽があって、足もあって、
自由の象徴にもなってる鳥。
生涯の半分以上を
空で羽を羽ばたかせて生きる生き物。
私にはなんだか
怖がりのただの人に見えるんだ。
人が近づいてきたら逃げて、
高いところに停まって
また空を飛んで逃げる。
逃げない人なんかいないでしょ?
飼われてる鳥は別として
鳥も同じ気がするんだよね。
怖がって逃げてばっかりで
逃げ回ることが自由ってことではないと思う。
ただ逃避行してるようにしか見えない。
鳥にとって幸せとはなんだろう?
空を飛んだところで
足枷が外れるわけでも
天敵がいなくなるわけでもない。
共食いをする鳥もいる。
ちょっと長くなったけど
空を毎日飛んでる鳥でさえ
幸せかどうかわかんなくて
逃げてるのに
人が逃げる先が空に飛ぶことでいいのかなって。
ま、私が言えることじゃないんだけどね。
"Good Midnight!"
月明かりが照らすのは
私の背中に生えた真っ白な羽。
否定するのは違うから
私は別に構わないと思うよ?
まだ瑠璃色の空が広がる午前4時半、
夜明け前で1番綺麗な空。
ベランダに出ると肌寒くて、
まだまだ冬だなぁと思わされる。
夏はあんなに
外で涼しい風に当たって寝たいと
思ってたのに、
今じゃ考えられない寒さ。
まだ星も月もちゃんと見えて
とても4時半には見えない。
でも
なんだかこの時間だけは
世界を独り占めしてる感じがして
すごく好き。
早起きなんじゃなくて
寝るのが遅いだけ。
夜更かしが好きで、
迷子列車の「夜の鳥」にも
乗ろうとしたことはあるけど
駅まで少し歩くから
行けずじまい。
かといって家でもすることがなくて
漫画や小説を読み漁ったり
300ピースのパズルをやったり
たまにだけどゲームもする。
なんやかんやで寝るのは
朝の5時とか。
そこから昼の12時に起きて
また寝る。
起きたらもちろん夕方。
新年であっても
私の夜更かしは通常運転。
ベッドで寝そべっても
目は冴えていて
夜の静かな時間を過ごした。
寝て起きて寝たら
夕焼けがカーテンの隙間から差し込んでいた。
"Good Midnight!"
初日の出は見逃しても
夕焼けは怠惰の味方。
初日の出を見た気分になれた。
ここから段々私の好きな夜に染まる。
今年もいい真夜中を過ごせますように。
神社も何も無いけど
少しばかりお願いしてみた。
深夜2時1分。
スマホをもったら
グダグダずっと画面を見てしまう。
怠けてばかりの私でも
今年の抱負くらいはある。
「ほどほどに」
実は毎年変わらない。
何をするにもほどほどにできていればいい。
逆に言うとほどほどにできていなければ
焦った方がいい。
自分の中でラインを決めるのは
かなり強い武器。
しかし、
そんなちょっと良さそうな事を言っても
山積みのタスクは終わらんわけで。
やる気も一切無し。
年明けずっと逃げてばかり。
糖分不足といって
1つ終わる度にチョコレートを1つ食べていた
あの頃の私が恋しい。
お菓子はあるけど
あの頃のほんの少し残っていたやる気は消え去り
苦しむ日が増えてきた。
今したいことが
過去の自分のせいで出来ないとか。
あるあるだし、
なんなら去年も一昨年も
5年前だってあったことだし。
睡眠は取れた方がいいって
誰かが言ってた気がするけど
ほどほどに取ろうかと。
とかそんなの言ってる場合じゃなくて。
ほどほど?
ギリギリの間違いなのでは?と
何回思ったことか!
決めるだけ決めて、
未来に任せすぎて
過去はどうにもならないのに自分を恨んで
時間管理は大事だとわかってるのに
大事にできない。
"Good Midnight!"
ほんとはどうにかしたい
絵馬もおみくじも
結んで隠す。
新年明けましておめでとう。
なんて
こいつらには一生言いたくなかった。
毎日毎日狂ったように宝くじを買う両親は
年末ジャンボに多額の金を払った。
結果はもちろん
ガチャを1回引ける程度のもので
いつものように2人はどこかへ行ってしまった。
残された私は
いらない宝くじを捨てに行った。
帰り道、
私は目を見開いて驚いた。
真っ白な蛇と真っ黒な猫が
一緒に歩いていたのだ。
思わず4度見。
猫はともかく蛇!
街中にいたら危ないんじゃないのか。と
オロオロしていたが、
人とすれ違わない。
さっきから妙に静かだ。
ここは本当に街中なのか?と疑うほど
シーンとしている。
蛇は段々私に近づいてきて
年末ジャンボを1枚欲しいと言い
びっくりして承諾してしまった。
後で冷静になって
ハズレばかりだったのを思い出した。
"Good Midnight!"
追いかけようか迷ったけど
クソみたいな日常に戻ることにした。
蛇が年末ジャンボの当落確認するなんて
馬鹿げた話はないもんね。