また忘れ物に気づかずに
歩道橋を渡っていた。
メモに書いても絶対何か忘れる。
昼ということもあって
ポカポカして眠くなる。
近くの道路から排気
ガスの匂いが鼻を通り頭を覚ます。
雨が降りそうな灰色の雲が
私の忘れ癖をからかいに来たように
上に広がっていく。
なんだか全てがグレーな日。
やらなきゃいけないことも詰まっていて
違うことをしたい気分。
とりあえず家に帰って
ダル着に着替えた。
なにか映画が見たくて、
アマゾンプライムで
「空の青さを知る人よ」を検索し、
時間を見て再生した。
この映画はちょっとだけ複雑な恋愛関係で、
初めて見た時は
何がなんだかわからなかった。
でも
やることがありまくりの今なら
よくわかる。
詰まってるからこそわかるものがある。
多分数日間はこの映画に
影響されっぱなしかもね。
時計を見ると
既に23時。
今から晩ご飯を食べても
やることは出来るだろうか。
結局お風呂を上がった後に
漫画を読み始めてしまい、
午前2時になった。
これで最後にしようと思い
手に取った漫画は澄んだ青色の表紙。
"Good Midnight!"
が合言葉。
今日も忘れ物をに気づかずに
歩道橋を渡る。
上には
どこまでも続く青い空が
広がっている。
いや、寒っ。
私は天気予報を天気しか見ない派だ。
昨日まで夏のような暑さだったというのに
今日は一気に気温が下がったみたいだ。
ショッピングモールではちらほら
秋服と冬服を見かけた。
そろそろ衣替えかなぁ。
私が好きなお店は秋服が可愛い。
丁度近くを通るので、
中に入って見てみた。
森林や夕焼け、真夜中のような
3種類のグラデーションのスカート。
紅葉が描かれたアシンメトリーワンピース。
目に入るもの全部が可愛くて、
1時間迷った。
結局、
真夜中のようなグラデーションのスカートと
上に羽織るものを買い、
トイレで着替えた。
スカートは少し厚い布の上にレースがあり、
暖かかった。
トイレの鏡で15分は見た。
このスカート、
絶対私の大好きな漫画の
ある一言がすごく似合う。
"Good Midnight!"
今はまだ夕方だけど
もう私の心は静かな真夜中。
間違えたもの、
さてどうしよう。
無かったことにするには
時間と力が必要だ。
こんな夜中に作業などしたくない。
でも私はしなきゃいけないことをためている。
後回し後回しで気づけばこんなことに。
午前2時54分。
すごく眠くなってきて、
早く寝たかったけど
しなきゃいけないことをしようか、しまいか。
するんだったら何からしようか。なんて
ずっと考えているからだ。
そうこうしてるうちに
うとうと…。
目が潰れるまでゲームしていたいって思うし、
声が枯れるまで叫びたいって思うし、
永遠に眠るように寝たいし。
いろんな感情が混ざりすぎたコレを
人は混乱や、焦りととらえるらしい。
はてさてねむいぞ。
うとうとしながら部屋を眺める。
"Good Midnight!"
牡羊座、牡牛座、双子座、蟹座、獅子座、乙女座、
天秤座、蠍座、射手座、山羊座、水瓶座、魚座。
星座は12個あるけど、
良いも悪いも存在しない。
それぞれ大体の性格があって、
大体当てはまるかな〜くらいの軽いもの。
でも私、
そんなあまり意味の無い星座でも
自分の星座がすごく好きなの。
水瓶座。
形も可愛いし、
名前もしっくりくる。
神様がどーたらこーたらの話は
よくわからないけど、
とにかく好き。
ある日、
イヤホンをどこかで落としたみたいで
カバンの中をいくらひっくり返しても
見つからなかったの。
私、人の声が苦手で
しんどい時はいつもイヤホンで音楽を聴いてるの。
家に帰って泣き叫んだ。
安かったからまた買ったらいいんだろうけど、
違うんだよ。
買いたくないの。
無くさないように気をつけてたのに
無くしたことがショックだった。
先月買ったばかりだった。
その時、
水瓶座の形をした指輪をしてたんだけど、
それを見たらもっと泣きたくなった。
始まりはいつも終わりみたいなものだなぁって。
明日がしんどいなぁって。
気持ちを落ち着かせるために
ベランダに出た。
今日はいい夜の匂い。
"Good Midnight!"
曇っていて
星は見えないけど
この世に星座は
確かに存在していて
水瓶座も
この空にある。
推し活。
それこそが私の生きがいであり、
存在価値なのです。
私は2次元にしか推しを作りません。
スマホでもなんでも
オリジナルグッズが作りやすいからです。
推しは多ければ多いほど
私を満たして幸せにしてくれると思ってます。
推しカラーは常に身につけるし、
推しが嫌いなものは私も嫌いです。
私の中心は推しなんです。
推しのために毎日生きているのです。
こんな私の考え方は
家族に否定されていると思っていました。
お金使いが荒く心配していてくれた両親。
好きなことにお金を使うなと言われたと思った私。
私の勝手な解釈で
すれ違いを起こしてしまったんです。
その事を知ったのは
両親が亡くなった数日後でした。
家が遠くて
お葬式に出られなくてごめんなさい。
車運転出来ないし、
電車も無くて、
徒歩で行こうとも考えたのですが、
姉に止められてしまいました。
涙が溢れました。
自分の推し活のせいで、
両親を何度も傷つけてしまったと思いました。
初めてこの泣いているところを
部屋に飾ってる推しに見られたくないと、
同じ空間に居たくないと思いました。
一度全てのグッズを押し入れに入れて
戸を閉めた時、
本当に私は何にも大切に出来ないんだと
また涙が溢れました。
この涙を拭ってくれるのは
もう姉しかいません。
立ち直るまで多くの時間がかかりました。
夜になると
夢の中で両親が私の喉を潰しに来ます。
怖くて怖くて
毎晩姉に泣きつきました。
そんな時姉が読み聞かせてくれた漫画。
その一言目に私は惹かれました。
なので姉はその一言を
いつも最後に言ってくれます。
"Good Midnight!"
と。
魔法のような言葉です。
この言葉を聞くと
両親が微笑みながら
話しかけてくれる夢をみれるのです。
私は当分推し活ができないでしょう。
推しは悪くないのですが
今はお金すら見たくありませんね。
なので姉が頼りなのです。
姉が居なくなったら
私…私……。
頭がおかしくなっちゃいそうです。