服なんて気にしてなかったから、
今日はいつもより引き締まっている。
星が描かれた靴に一目惚れして
買ったはいいものの、
家から出ることなんて滅多にないので
困っていた。
そんな時バイト募集中のポスターが
いっぱい貼ってあるところを見つけた。
その中にあった
ポップアップ写真というものに目を惹かれた。
なんでも、
個性的な着物を作っている人が
ポップアップの写真を撮るために
誰かに着物を着てもらい
和風な部屋や道を歩いてもらいたいようだ。
場所に着くまでは
私服OKと書かれていたので、
星の靴とパーカーで
カジュアルな格好をして行った。
グラデーションが綺麗な
青色の着物を着せてもらい、
まずは道を適当に歩いた。
内股で歩くのがすごく大変だった。
次に部屋でお茶を飲んでいるところ、
和菓子を出しているところなど、
全て終わり
依頼人がお金を取りに行った。
静寂に包まれた部屋で
鳥が鳴いているのを聞いて、
バイト募集、今度からしっかり見よ。
と思った。
お金を受け取り、
家に帰る途中
ポップアップってなんだったかなと
スマホを開き調べた。
写真や文章の書かれた
商品の近くに置いてあるもののことだそうだ。
スクロールしていると
なんだか変なとこを押してしまい、
ある漫画のウィキペディアに飛ばされた。
よく見ると表紙が綺麗だったので、
そのページに居座った。
"Good Midnight!"
と、
ある人物が言うのだが、
その人と仲のいい人が考えた挨拶だった。
でもある人物はその挨拶がダサいと言い、
変えてくれと頼んでいた。
だが、私はお洒落でいいなぁと
ため息をついていた。
読み終わる頃には
私の中での考えは前とは少し変わった。
今度はこの靴とパーカーで
どこへ出かけようか。
この1回きりでは割に合わない。
もっと冒険に連れて行ってやるか。
この漫画の人たちみたいに。
夢を見てたの。
お気に入りの服を着て
出かける私の夢。
もうずっとここにいたいって思った。
でも夢で、
起きたら自分の部屋で、
散らかった部屋が目を覚まさせてくれる。
外が暗いから深夜なのだろう。
そういえばお風呂入ったっけ。
晩ご飯食べた……?
よくわからなくなってきて
スマホの明かりをつける。
あっ、まだ18時だ。
最近風も冷たいし、
18時でも外は暗い。
ふと横を見ると
絵を描いている途中だったことを思い出した。
机は描く場所がないから、
ベッドの上で。
その女の子の絵は
夢の中で私が着てたような服を着てる。
別れ際に
主人公に
全てを諦めたような
意味深な笑みを浮かべる
重要キャラって感じの表情。
絵ってのは
当たり前だけど
描く人の画力で
可愛くも、美しくも、かっこよくもなれる。
だから私、
この子をもうちょっと儚くしたい。
色白で触ったら消えちゃいそうな子。
起きたらやる事山積みで
死ぬまでこんな感じだろうと思った。
寒いくらいクーラーつけて
ちょっと季節外れなスイカを食べる。
食べながらやる事やってんだ?って。
いやいや、漫画読んでる。
"Good Midnight!"
ってのが心に刺さるのよね。
普通に聞いたら
心に刺さるとこなんて1ミリもない
言葉だけど。
絵と一緒だから刺さる。
意味がある。
多分漫画家さんって
本当に絵を描くのが好きな人なんだなって、
わかっちゃう。
わかりたくないのになぁ。
私と全然違うんだもん。
ま、いいや。
漫画を本棚に戻し、
もう一度夢の中へ。
はぁ〜。
今日はついてない。
まさか抹茶パウダーが売り切れなんて……。
アイスクリーム屋さんも定休日だったし、
クレープ買ったら
下から全部落ちてったし。
通り雨は私の涙をかっさらった。
それは嬉しいけど
服はびっしょり。
3年ほど文通している人への手紙も
滲んで書きなぐりみたいな字になったし。
まあいいか。と出したのだけど、
裏側をメモ代わりに使ってたことを
今思い出してしまった。
しかも曲名をメモしていて
「にこにこしてたい。」
って書いてた気がする。
うおぉぉおぉぉおおぉ!!
ポストの前で頭を抱え叫ぶ変人の完成だ。
滲んで変な誤解を生まなければいいのだが…。
靴も濡れていて
重くて足が上がらない。
もう帰ったら寝よ。
倒れ込むように寝た翌日、
文通している人から
速達で手紙が届いた。
内容はいつも通りだったが、
よく見ると
暖かい言葉が使われている。
最後には
"Good Midnight!"
と書いてあった。
メモに気づかれなくてよかったぁ〜。
ほっとしたのもつかの間、
力が緩み
左手に持っていたスマホが
足へと落ちる。
イ゙ッダア゙ア゙ア゙ア゙ア゙。
もしかして今年のおみくじ大凶引いたから?
あと半分で今年終わるってぇぇえ!!
1人家でキレていた今日この頃。
えーっ!SNSキョーミないの!?
向かいの席に座っている、
私の唯一陽キャと呼べる友達が大声を上げた。
お洒落なカフェで
チョコブラウニーを頼んだのだが、
友達が撮らないの?SNS用。
と聞いてきたので、
アカウントもないし、
そもそも興味がないと伝えたのが
事の発端だ。
こんなに楽しーのにもったいなー。と、
フォークを咥えながら
投稿画面を見せてくれる。
ブラウニーの画像に
少し暗めのフィルターがかかっていて
高級感がある。
その下には
#カフェ
#チョコブラウニー
#秋🍁
#最近肌寒いよね
などと書かれている。
なぜ続けているのか聞いてみた。
どうやら承認欲求を満たすため、
みな狂ったようにイイネせがみ、
その数で快感を覚えるようだった。
なんだか人間がスマホに支配されたみたいで
少し怖い。
なんとなく、
自分のスマホから情報アプリを開いた。
このアプリはニュースに載らないような
ちょっとした記事が書かれている
お気に入りのアプリだ。
スクロールしていくと、
4巻発売!と書かれた記事と
漫画の画像が出てきた。
1話の試し読みができたので
気になり読んでみると、
"Good Midnight!"
から始まるこの話は
非現実的で
惹き込まれた。
ちょっとぉ!せっかく2人でいんのに、
なんでうちらスマホ見てるわけぇ!?と、
無駄にでかい声で現実へ戻された。
チョコブラウニーを頬張り、
不服そうに見つめる彼女を見て、
口元にチョコがついているのに気がついた。
遠かったので
椅子から少し立ち上がり、
そっと触れた。
チョコはすぐ取れたが、
友達はぽかんとしている。
綺麗な顔だな。
と、
あと数秒でいいから
長く見つめていたかった。
……ジーッ、…ザザッ。
皆さん、こんばんは。
本日は「夜の鳥」をご利用くださり
誠にありがとうございます。
こちらの列車は、
夜更かししたいお客様を乗せ、
夜の街を走る
気まぐれ列車となっております。
行き先が明確ではないので
迷子列車ともいわれております。
皆さんの車両にあるベッドに座って
どうぞごゆっくり
この夜をお楽しみください。
初めてご利用の方もいらっしゃいますので、
少しだけ等列車のことを説明いたします。
前から1両目は運転席、
2両目は私の休憩場所となっております。
食堂は3、4両目にございます。
うどんしかありませんが。
自動販売機もありますよ。
…ミルクティーとココアしかありません。
5両目には本の貸出コーナーがあります。
少し古いものがあるかもしれません。
破けていたりしたら、
2両目の藍色の棚に置いておいてくださると助かります。
その他の車両はお客様がいらっしゃるので、
ノック無しに入られるのはお辞め下さい。
……できれば2両目に入る際も、
ノックしていただけると嬉しいです。
運転中に私が暇すぎて、
車両ごとにアナウンスします。
やめて欲しいよって方は
壁についてる星のボタンを押してください。
それでは皆さんGood Midnight!
…プツンッ。
………チリンッ。
こんばんは。
お客様、等列車のご利用初めてですよね?
初回のお客様に
枕をプレゼントしてるんです。
画面からお選びいただけますか?
…ありがとうございます。
いいですよね〜。
夜更かし枕。
硬さが最高ですよ。
後ほどお届けします。
少しの間ご一緒させていただけませんかね。
ありがとうございます。
この窓大きいですよねー。
どの車両も同じ大きさなんですよ。
この列車の窓から見える景色は
多分私たちが一生関わらないような、
見たことしかないような、
そんな景色ばっかりなんです。
でも星、綺麗でしょう?
ふふっ。
ここら辺の夜はよく晴れるんです。
食堂のカウンター席からは
そこでしか見れない星もございますので、
読書のお供にしてみてはいかがでしょう。
おすすめの本ですか?
そうですね…。
「星屑パスタ」という本はどうでしょうか。
内容も絵も素敵ですよ〜。
貸出コーナーにございます。
では、そろそろ他の車両へアナウンスしてきますね。
こちらこそお話してくださり
ありがとうございました。
Good Midnight!
…プツンッ。