うちではオーナメントの代わりに
貝殻をクリスマスツリーに飾る。
一人暮らしでこの飾りは少し寂しいような気もするが、
他の家ではあまり見ない飾りを
私はとても気に入っている。
サンタさんなんて存在しないと思いつつ、
毎年手紙を書いてしまう。
当たり前だがプレゼントは来ない。
なので今年は
ハワイアンな便箋で書こうと思った。
いつも便箋だけ赤と緑で
上らへんにリースが描いてあるものを使っていた。
だからツリーと統一してしまおうと
思い切って買ったのだ。
わくわくしながら寝た翌朝、
なんと
プレゼントがあったのだ。
うええおぉうぉあああ!!!
と、
可愛くない喜び方をしてしまったが、
中身はちゃんと
私の欲しかったものだ。
いつでも読みたくなるような、
飽きない漫画が欲しいと書いた。
表紙を見た瞬間
あ、これ好きぃぃぃ!!と叫んだ。
1ページ目から
私の好みを知り尽くしたように
惹かれる一言が書かれていた。
"Good Midnight!"
読み終わるまで
今日はここから動けないだろう。
クリスマスツリーの1番上に飾られている
ラメ入りの大きい貝殻が
日光に照らされ
きらきらと光らせながら
私を待っていた。
私はずっと空を飛んでみたかった。
漫画やアニメでよく見る、
非現実的な
超能力や魔法に憧れた。
その中でも特にやってみたかったのが
空を飛ぶことだった。
海の上を飛んだり、
雲の上から夕日を見たり、
きらめき輝く星空を
街明かりの少ないところまで
飛んで見に行ったり。
でも
どんなに憧れようと
人間は空を飛べない。
何年後かには飛べる何かがあるかもしれないけど、
今すぐ飛べるようになるのは無理だ。
不可能。
諦めるべき夢。
頭がいい方ではないので、
飛べる装置を作ることもできない。
それでも憧れてしまうのだ。
ある日、
何もしたくなくて
部屋にこもってた。
でも新しい漫画が欲しくなって
買いに行った。
なんでもよかったんだけれど、
すごく惹かれる非現実的な表紙を見つけ
すぐ読みたいと思って買った。
内容はまさに私が求めていた世界そのものだった。
本気で漫画の中に行きたいと思ったのだ。
でもわかってる。
叶わないことだって。
だから私は夜、
せめてもの抵抗で
"Good Midnight!"
と呟いている。
それは漫画の最初の一言であり、
最高の一言だ。
とても気に入っている。
いつか叶わないものが叶いますように
という
願いを込めて。
強く開けすぎてカーテンのフックが外れた今日。
誰かからの台湾土産でもらった
パイナップルケーキを
こぼさないように上を向いて食べる。
パサついていて、
飲み物がないとキツイ。
冷蔵庫を開けると
水筒に水が入っていなかった。
面倒くさいが、
ペットボトルを手に取り
入れていった。
最近
どんな些細なことでも
面倒くさく感じた。
怠惰だなぁと
自分でもよく分かっている。
でも
まるで老人の体のように
だるくて
動くのも面倒なのだ。
そんなことを振り返っていると
いつの間にか水筒から
水が溢れていた。
さぁ、
ティッシュは遠い。
取りに行くのは面倒くさい。
タオルはー、
まぁ、取れなくはないが
後々洗濯するのが面倒だ。
ということで自然乾燥にする。
水を1口飲んで、
ベッドにダイブする。
溺れるかのように眠り、
気づけば深夜だった。
朝9時に起きたのに!!
と、
自分と時間に怒った。
別にお腹も空かなかったので、
ぼーっと座っていた。
ふと、
最近漫画を見てないなと思った。
趣味の漫画収集は
ちょっと前から休憩中だ。
でも今まで集めた漫画は
天井の少し下までの高さの本棚を埋めつくしていた。
特に好きな漫画は
いつでも見れるように
ベッドの横の小さな本棚に入れている。
そこから何冊か手に取り、
静かにページをめくる。
"Good Midnight!"
漫画の名前を見てなかった。
まさか1冊目、1ページ目から
1番好きな言葉が書かれた漫画を当てるとは。
これはいつも最後に読んで、
最高の気持ちのまま眠るための
とっておきなのに。
でもまあいいか。
今日は早めに寝よう。
そう思い、
サイドランプの明かりを消した。
何にも興味が湧かない。
何にも夢中になれない。
全部どうでもいい。
抜け殻みたいな毎日。
私は何のために生きているんだろうと、
今日もやらないといけないことを
ほっぽり出して
ゲームをする。
ゲームはただの暇つぶし。
いつも飽きてしまい、
インストールとアンインストールを繰り返す。
でも
今日のゲームはなんだか違う。
世界観も
操作するキャラクターも
全てに惹かれる。
心の灯火が
抜け殻を溶かして
新しい世界へ連れて行ってくれるみたいに。
もう1人の自分が作れるこのゲーム、
といっても
操作するキャラクターは
人間ではないけれど、
夢見てた空を飛べたり、
フレンドとお話できたり、
毎日が楽しくなった。
今は楽しくお気に入りの漫画の話をしている。
私はあまり漫画を読まない方だが、
4冊だけ
同じシリーズで気に入ってる漫画がある。
でもそれは
誰にも教えたくなかったから、
みんなが話してるのを見てるだけだった。
ここにいる人だけに
その漫画のとくに好きな一言を紹介する。
"Good Midnight!"
流石に漫画名は言いたくないし、
ゲーム名も言いたくない。
独り占めしたいという気持ちが強い私は、
ベランダで少し欠けた月を見ていた。
私はよく「追いLINE」というものをしてしまう。
会話と違って、
すぐに反応がないから
次から次へと送ってしまうのだ。
だから友達にはウザがられてばかり。
次第に話すのが気まずくなり、
開けないLINEとなった。
どこにもやり場のない話題は
ずっと積もっていき、
人との会話を好むアウトドア派だったが、
誰とも話さないインドア派になった。
誰かに話を聞いてもらったら
治るんだろうけど、
もうそんな勇気はどこにも残っていなかった。
Xなどには興味も無く、
常にひとりぼっちで、
寂しかった。
そんな時出会ったのが
アヒル隊長だった。
「ぱふ」っとなる可愛らしい音、
アヒルの見た目で
私の心は全て埋め尽くされた。
それから百均などで見かける度に買っている。
今では500体ほどいる。
ちょっと疲れた時に鳴らす音が
とても癒されるのだ。
今日も私はアヒル隊長を買う。
ふらっと立ち寄った本屋さんに
売っていたのは意外だが、
他のアヒル隊長よりオシャレに見えて
少し気分が上がる。
ふと、横を見ると
人気の漫画コーナーがあった。
そこにあった1冊の漫画が気になり、
アヒル隊長と一緒に買ってしまう。
夕方、
早速読もうとページをめくると、
"Good Midnight!"
と書かれていた。
翻訳してみると「よい真夜中」。
すごくいい言葉だと思い、
誰かに共有してみたくなった。
でも誰に…。
…LINE?
少しだけ、
ほんの少し勇気を出して
LINEを開いてみちゃう?
と、自分に問いかけ、
思い切って送ってみた。
「Good Midnightって素敵な言葉だよね。」
「翻訳してみたけど、めっちゃオシャレで素敵だね🥰」
なんだ。
こんなもんなんだ。
相手の顔が見えないから
反応わかんなくて、
私が勝手に勘違いして
勝手に話しかけなかっただけなんだ。
もっと早くLINEを開けばよかった。
人との会話は
やっぱり暖かくて
楽しくて
安心する。
沢山の涙が頬を伝り、
床に落ちていった。