これからも、ずっと
桜の花びらが風に舞うあの日、貴方が私に言った。
「これからも、ずっと一緒にいよう」
そう言って、可愛い石のついた指輪をくれたよね。
私の手を取り、慎重に着けてくれた指輪。
可愛くて、綺麗で、繊細で。
それはぴったりと私の左手の薬指に収まった。
私は嬉しくて、ずっとそれを眺めていたっけ。
貴方は私に、指輪ばかりじゃなく僕も見てよとすねるように言ったけど、どこか嬉しそうだった。
そんな貴方が可愛くて、私はついついイジワルして、わざと指輪を見続けた。
そんな春から年月は過ぎて、私のお腹には、今新しい命が宿っている。
あたたかくて、可愛くて。
貴方は私のお腹をなでながら、楽しみだねと言った。
少し不安もあるけれど、貴方とならきっと、育ててゆける。
この子が産まれたら、また桜を見に来たい。
ひらひら舞う花びらを追いかける可愛い手のひら。
楽しみだな。
これからも、ずっと。
了
沈む夕日
ビルの向こうに沈みゆく夕日と、後ろからゆっくり空を覆うように降りてくる、夜の帳。
その、ちょうど間の色が好きだ。
薄暗い青と、夕日のオレンジがぼんやりとグラデーションのようになっていて、とても綺麗で。
切ないような、悲しいような。
ああ、今日も終わるのだと。
ゆったりとした闇に包まれゆく刹那の時間。
何もかもが、止まってみえるそんな時。
今日の私の悲しみも、遠くの誰かの切なさも。
全てを包んで、消えてゆくから。
明日はきっと、いい日になる。
そう思わせてくれるから。
私はこの時間が好きなのだ。
ねぇ、貴方も何処かでこの夕日を見てるかな?
今この瞬間を、同じ空の下で。
了
君の目を見つめると
君の目を見つめると、心臓がドキドキして私の顔は熱くなる。
君が笑うだけで、私はただただ幸せで仕方ない。
君の声が私を呼ぶと、まるで私の名前じゃないみたいで。
君の仕草が好きで。
君の大きな手も、広い背中も、何もかも私をドキドキさせる。
ああ、その柔らかそうな髪に。
ああ、触れることが出来たなら。
私は本当に幸せなのに。
どうして、貴方は私のものじゃないんだろう。
それだけが辛くて。
それだけが悲しくて。
けれど貴方に会えないことはもっと辛いから、私は貴方の友人でいることを選んだ。
貴方を好きな気持ちは胸の奥にしまって。
今日も私は貴方に笑いかける―――友達として。
了
星空の下で
「もう、こんな時間なんだね」
2人、空を見上げる。
真っ暗な空の中、キラキラといくつもの星が瞬いている。
隣で伸びをする貴方を横目で見ながら、私の心に愛おしさがあふれた。
再び、夜空に目を向ける。
満天の星空の下で、ただひんやりとした空気を吸い込んで。
そうしていると、吸い込まれるような、身体が浮くような感覚を覚えて……
そうしたら、ギュッと手を握られた。
思わず隣の貴方を見る。
「何か今、どこかへ飛んでいきそうに見えたよ」
「そう、だね」
自分でもそう感じていた。
ふと、抱き寄せられる。
「何処にも行かないで」
耳元に寄せられた消えそうな声が、切実さを物語った。
「行かないよ」
ここにいる。貴方の側に、ずっと。
貴方が私を必要としてくれる限り。
星空の下で、私は心に誓った。
了
それでいい
私は今日、恋を失った。
本当なら泣いて、泣きまくって、悲しみに浸りたかった。
けれど、それは出来なかった。
私の涙はとうに枯れ果てていたから。
この日が来るまでに何度も何度も泣いて、苦しんで。
そんな恋だったから。
もう、泣きたくなかったから、ダメなのを分かっていて、告白した。
今は、ホッとしている。
もう泣かなくて済むことに。
もう貴方の事ばかり考えなくていい事に。
そうして毎日を過ごしていれば、きっと貴方がいたことすら忘れてしまうんだろう。
それでいい。
それで私は私を取り戻せる。
それでいい。
明日からは違う私になれるはず。
それでいい。
貴方が私を選ばないなら、私も貴方を想わない。
きっと、それでいい。
了