逃げられない
逃げられないものってあるだろうか?
なんでも、好きなように生きれる時代に国に生まれ
なんでも、選べる時代に国に生まれた。
嫌なことからは逃げればいい
学校も仕事もべつに逃げられないものじゃあなくなった。
借金取りが来たら
自己破産
恋愛も結婚も
嫌ならやめることを恥とはしない時代になった
親が社会が世の中が同僚が友達が
僕を理解しない僕らは社畜じゃない
仕事からも逃げることは簡単だ
寄生出来る親さえいれば
子供部屋のパラダイス
たまに出てきて
弱った母親相手に
ネットニュースで
やってる、言ってるニュースを
自分が体験して来たみたいに
世界情勢について語っていればイイ
そして呆れた
ばあちゃんに
言ってるお前が働けと
言われていればイイ
そしてまた
子供部屋に
逃げ込めばイイ
この時代にこの国で
逃げられないなんて
病の余命宣告
くらいではないだろうか
赤い紙切れ1枚で
戦場に向かい
強制的志願で
志願して
特攻して逝った
若者たち
親の作った
借金のかたに
身売りの娘
貧しい親兄弟を
支える為に
雪山越えて
売られる少女たち
そういう
時代や国には
逃げられないものが
不条理があったのかも
知れないが
今この時代この国で
逃げられないものなんて
寿命くらいしかない気がして
こういう贅沢も
贅沢と気づかずに
生きてしまう幸せ
きっと、逃げられない
逃げなかった過去の人たちが
くれたものだと
せめて感謝したいと思う
逃げられないものなど
寿命くらいしかない
この時代この国で
2024年5月23日
心幸
また明日
ここまで生きてくると
「また明日」と言いながら
会わなくなった人の多さに驚く。
これが永遠の別れと思いながら
別れることなんてあるのだろうか?
とさえ思う。
「またね…」
手を振り
何時ものように
別れて会わなくなった友
友達はレストランの皿洗いのように
変って行く
「またね…」
あなたは、大きく手をあげた
何故だか私は
もう一度振り返った
今もあの時の父の姿を
覚えている
どうして
こんなに
別れは辛いのだろうね
だから
「またね、また明日」
そんな可愛らしい
言葉を呟くのかな
ランドセルを
背負った帰り道
別れ道で
友達に手を振るみたいに
「また、明日…」
それが、もう会わない
最後の日であったことは
ずっと後で知ることになっても
「また、明日…」
一期一会
2024年5月22日
心幸
透明
僕は透明だった
全てが僕を通り抜け
誰も僕に気づかなかった
あの日大陸の
広い広いサトウキビ畑で
鉄砲を担いで
殺して殺され
広い広いサトウキビ畑で
鉄砲を担いで
突っ伏した
…それから、ずっと
僕は透明で
全てが僕を通り抜け
誰も僕に気づかなくなった
通り抜ける風に乗り
僕は懐かしい故郷に帰った
お母さんは待っていた
お父さんも待っていた
君も待っていた
けれど
透明な僕に
誰も気づかなかった
みんな泣いていた
僕なら、ここに居るよ
そう言っても
そう叫んでも
僕の声は届かなかった
僕は透明で
そこにいた
ずっとそこにいた
君のそばに
ずっとそうしていた
ずっとそうしていたかったから
そうした
やがて、何十年の月日が流れた
君は母親になり
君はお婆さんになった
そして君は居なくなった…
けれど、透明なそこにいる僕は
居なくなることが出来なかった
どうして?
僕は悲しくて悲しくて泣いた
夜中泣いた
風がそっと教えてくれた
僕は人殺しにされたから
君と
同じところには
行けない
透明のまま
歳ならあの日のまま
鉄砲を担いで
そこに居なければならない
僕はそのことを知った時
僕にそうさせたものを憎んだ
けれど、咄嗟にやめた
何故なら、それは僕が信じた
その時の
精一杯だったから
僕は静かに目を閉じて
顔を天に向けて
そして君の名を
呼んだ
その時声が聞こえた
星のように煌めき揺れながら
その声は
僕を抱いた
僕は後悔なんてしていないよ
あれがあの時の
僕の紛れもない精一杯
だったから
僕は愛するあなたを
守れたかい?
同じところには
行けなくても
透明のまま
ここにいるよ
君の子供たちも
やがては孫たちも
いることだし
僕は透明のまま
愛するものたちを
見守るよ
いいだろ?
それからまた
幾年流れ
ある夜
流れ星が流れた
その先に光は落ちて
君が居た
どうして?と尋ねる僕に
私は居なくなったんじゃない
あなたとまたこうして会うために
あなたの様に精一杯命を使ったの
だから、これからは
あなたとここにいる
透明な私たち
何時までも一緒に
あなたの居る場所が私の極楽浄土
2024年5月21日
心幸
理想のあなた
わたしのあなたは
いつも、最後に笑ってる
大人しくて
私が私が私ってよくデキるでしょ
なんて、しゃしゃり出るあざとさの微塵もない
大きな声も張り上げない
決して人の前は歩かない
煩ささのないあなた
あなたの前では
時間が穏やかに流れていましたね
人を責める前に
庇っちゃう人で
与えちゃう人で
あげちゃう人で
気づけば
損ばかりしていた
損ばかりしているのに
最後に笑ってる
私はあなたには
叶わない
理想のあなたは
私の母でした
2024年5月20日
心幸
突然の別れ
悲しみを満たした初冬の朝の光が差し込む部屋に突然鳴り響くベルの音。
なんのことか解らずに、悲しみから目覚めない私はまるで夢の中に居るようだった。
若い看護師が慌てて入って来た霊安室。
誰が押したか知らないが非常ベルが鳴っていた
霊安室の・・・。
あれは、父の無念の死の叫びだったのだろうか?私は少し霊感が強い方だが、そんな私が経験した霊体験のような父との突然の別れの朝だった。
いい人生だったのか
はた迷惑な人生だったのか
したたかに酒を飲み
酔った挙句に
帰れなくなってしまった
ヘタレ親父
情けないやら
悲しいやら
呆気にとられて
別れの言葉も涙も
出なくて
悪い夢でも見せられているように
呆然と立ち尽くしていた私を
目覚めさせるかのような
ベルの音
お父さん、そこにいるの?
何、悪戯してるの?
早く、戻ってよ!
私は、心の中で叫んだが
言葉が声に出なかった
やっぱり、これって現実?
お父さん返事してよ!
父は笑っていた
最後に笑顔を残して逝った
え、寝てるんじゃないの?
飲み過ぎたって、頭かきながら
起きるんじゃないの?
なにこれ、悪い冗談やめてよ…
悪夢を掻き消すベルの音
でも、目覚めても悪夢は続いていた
それは、現実だったから
それが、父との
突然の別れだった
あの日から
私は、いってらっしゃいは
目を見て言うようになった
絶対に別れる相手が背を向けて
歩き出すまで見送るようになった
最後に高く笑顔で手を振った
父を忘れないために
2024年5月19日
心幸