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突然の別れ

悲しみを満たした初冬の朝の光が差し込む部屋に突然鳴り響くベルの音。

なんのことか解らずに、悲しみから目覚めない私はまるで夢の中に居るようだった。

若い看護師が慌てて入って来た霊安室。

誰が押したか知らないが非常ベルが鳴っていた
霊安室の・・・。

あれは、父の無念の死の叫びだったのだろうか?私は少し霊感が強い方だが、そんな私が経験した霊体験のような父との突然の別れの朝だった。

いい人生だったのか
はた迷惑な人生だったのか

したたかに酒を飲み
酔った挙句に
帰れなくなってしまった
ヘタレ親父

情けないやら
悲しいやら

呆気にとられて
別れの言葉も涙も
出なくて
悪い夢でも見せられているように
呆然と立ち尽くしていた私を

目覚めさせるかのような
ベルの音
お父さん、そこにいるの?
何、悪戯してるの?
早く、戻ってよ!

私は、心の中で叫んだが
言葉が声に出なかった

やっぱり、これって現実?
お父さん返事してよ!

父は笑っていた
最後に笑顔を残して逝った

え、寝てるんじゃないの?
飲み過ぎたって、頭かきながら
起きるんじゃないの?

なにこれ、悪い冗談やめてよ…

悪夢を掻き消すベルの音
でも、目覚めても悪夢は続いていた
それは、現実だったから

それが、父との
突然の別れだった

あの日から
私は、いってらっしゃいは
目を見て言うようになった

絶対に別れる相手が背を向けて
歩き出すまで見送るようになった

最後に高く笑顔で手を振った
父を忘れないために


2024年5月19日

心幸








5/19/2024, 12:20:20 PM