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透明

僕は透明だった
全てが僕を通り抜け
誰も僕に気づかなかった

あの日大陸の
広い広いサトウキビ畑で
鉄砲を担いで
殺して殺され
広い広いサトウキビ畑で
鉄砲を担いで
突っ伏した

…それから、ずっと
僕は透明で
全てが僕を通り抜け
誰も僕に気づかなくなった

通り抜ける風に乗り
僕は懐かしい故郷に帰った
お母さんは待っていた
お父さんも待っていた
君も待っていた

けれど

透明な僕に
誰も気づかなかった

みんな泣いていた

僕なら、ここに居るよ
そう言っても
そう叫んでも
僕の声は届かなかった

僕は透明で
そこにいた
ずっとそこにいた

君のそばに

ずっとそうしていた
ずっとそうしていたかったから
そうした

やがて、何十年の月日が流れた

君は母親になり
君はお婆さんになった


そして君は居なくなった…


けれど、透明なそこにいる僕は
居なくなることが出来なかった
どうして?
僕は悲しくて悲しくて泣いた
夜中泣いた
風がそっと教えてくれた

僕は人殺しにされたから
君と
同じところには
行けない

透明のまま
歳ならあの日のまま
鉄砲を担いで
そこに居なければならない

僕はそのことを知った時
僕にそうさせたものを憎んだ
けれど、咄嗟にやめた
何故なら、それは僕が信じた
その時の
精一杯だったから

僕は静かに目を閉じて
顔を天に向けて

そして君の名を
呼んだ

その時声が聞こえた
星のように煌めき揺れながら
その声は
僕を抱いた

僕は後悔なんてしていないよ
あれがあの時の
僕の紛れもない精一杯
だったから

僕は愛するあなたを
守れたかい?

同じところには
行けなくても
透明のまま
ここにいるよ

君の子供たちも
やがては孫たちも
いることだし

僕は透明のまま
愛するものたちを
見守るよ
いいだろ?

それからまた
幾年流れ
ある夜

流れ星が流れた
その先に光は落ちて
君が居た

どうして?と尋ねる僕に
私は居なくなったんじゃない
あなたとまたこうして会うために
あなたの様に精一杯命を使ったの

だから、これからは
あなたとここにいる
透明な私たち

何時までも一緒に

あなたの居る場所が私の極楽浄土

2024年5月21日

心幸



5/21/2024, 4:28:23 PM