深夜二時半
寝るには早い
光るスマホの画面を何を考えるともなく見詰める
窓の外を見るとさっきまでしとしとと降り続いていた雨はやんでいる
僕はスマホにイヤホンを繋ぎ音楽をかけ外へ駆け出した
冷たいアスファルトの上には誰もいない何も通らない
逆さまの世界をうつす目の前の水溜まりに飛び込む
頬にはねた水を手の甲で拭いまた宛もなく走り出す
大きな交差点の横断歩道に差し掛かる
僕は息を切らしながらゆっくり歩く
横断歩道の真ん中で耳元で囁く甘ったるい声が鬱陶しくなった
僕はイヤホンを引き千切った
明日なんか来なければ良い
時間が止まれば良い
皆消えれば良い
世界は滅べば良い
何度も願った
何度も呪った
でも叶わない
また明日がやってくる
千切れたイヤホンをドブに捨て僕はかえる
明日はきっと明るい日の中で僕は泣く
Title¦真夜中
俺はまさに今いじめの現場を目撃している
クラスの1軍のやつらが誰かを囲って罵詈雑言や暴力を浴びせている
よく目を凝らしてみるとそれは俺の幼馴染だった
気が優しく力もある彼は何故抵抗しないのだろうか
一方俺はクラスでも目立たない3軍男子
気も頭も弱くいついじめられてもおかしくない
でも俺はこのままあいつを無視して良いのだろうか……
あの中に入ってしまったら俺なんか死んでもおかしくない
でも幼馴染との思い出を無視する事は出来ない
あの日々を捨てる事は出来ない
俺は動かない脚を思い切り叩きよたよたと走り出した
────
体中が痛い
案の定俺は完膚なきまでに叩きのめされた
だがその時、蹲っていた幼馴染が震えながら立ち上がった
気が付くと俺は保健室のベッドに横たわっていた
ふと横を見るともう一つのベッドから幼馴染がこっちを見ていた
「いじめられているやつ助けるといじめられるぞ、俺みたいにな」
正直こいつはいじめとは程遠いと思ってたがそういう背景があったのか
「何で抵抗しなかった? お前ならあいつらぐらい──」
「抵抗したさ、お前がやられてるのを見てな。力は何かを守る為に使うと決めているんだ」
「俺……お前の事助けられなかった……結局何も出来なかった……」
「それで良いんだ、俺は嬉しかったぞ」
幼馴染への友愛で何が出来たかと言えば何も出来なかった
助けたい、そう思ったが気付けば俺が助けられていた
だが得られるものはあった
俺達は頭を小突きあいながら家へ帰った
またお前がいじめられてたら俺は助けに行くからな何度でも何度でも
Title¦愛があれば何でもできる?
俺は生まれながらにヒーローという宿命を背負っていた
力が強かった、期待をされていた
その力は皆の為に正義のために平和の為に
そう教えられてきた
遊ぼうという友人Aの無邪気な笑顔を犠牲に俺は沢山の人の命を救った
知能なんて言葉とは程遠い、ただ訳も分からず暴れる怪獣は勿論
世界に絶望し闇堕ちした『ヒーロー』達を殺すのは正直嫌だった
俺も何度も向こう側に行こうと思った
奴等を倒す度に壊れる建物や失われる命
いつしかヒーローという存在は忌み嫌われるようになっていた
でもAだけは違った。俺を励まし労い応援してくれた
だから俺は頑張れていた
だがもう限界だ
奴等は今夜間違った世の中を正しに行く
真の敵「政府」のやつらを抹殺しに行く
きっと街にはおびただしい数の死体が転がるだろう
もしかするとこの世界の生き物全て
明日には消え失せているかも知れない
俺には止められない、止める気も無い
もっとAと遊びたかった
例え世界が滅ぼうとも「今日も幸せだった」
そう笑って死にたかった
さよならA、お前は俺のヒーローだ
俺は『ヒーロー』の遺書を握り締めた
もう笑わない冷たくなった彼の頬に涙が落ちた
ヒーローだから、力が強いから
心のどこかできっとそう思っていた……馬鹿だった
俺も戦うべきだった、例え無駄に散るのだとしても
自分の幸せは、自分の平和は、自分で掴むべきだった
俺もすぐそっちへ行くよ
もし次があるなら、それが許されるなら、俺にも戦わせてくれ
そしてその向こうで腹を抱えて笑い合おう
俺は『ヒーロー』の胸に刺さったナイフを抜き
自分の胸にあてがった
そして俺はもう忘れ去られた『ヒーロー』の本当の名前を呟いた
「……──」
Title¦後悔
戦争 そんなものがなければ
きっと今頃彼女の周りには幸せが溢れていた
『いかないで』
あの日か細い手は彼の大きな背中を掴めなかった
彼は振り向き笑った
笑っていった
彼女は今
彼が作った平和の中で生きている
何もかも失った平和な世界
それは果たして平和だと言えるのだろうか
「違う……私は……こんな未来が欲しかったんじゃない」
Title¦彼女はとても憤慨していた。なぜなら・・・