私のような凡庸な人間はたくさんいる。
けれど、心に秘めた『物語』━━今まで書いてきたものは私以外には持ち得ない。
世界に一つだけ。私にしか作れない、私だけが持っている『物語』。
不安が焦りに変わる。
このままでは…全部埋められない!
どうか、どうか、間に合ってくれ!
手を動かせ!
しかし無情にも、時が終わりを告げる。
キーンコーンカーンコーン
「ちくしょう!テスト半分も解けなかったあああ!」
子供であるほど時間が遅く流れているように感じて、歳をとるほど時間が早く過ぎるように感じることがあるだろう。
これは子供の時は遭遇する事象が新しく見えるためであり、それらを経験した大人はいつもと同じ刺激のない毎日を繰り返すためにあるらしい。
つまり、わくわくして冒険心をそそられるような『きらめき』に出会うこと自体が少なくなっているのだ。
そして、その『きらめき』に手を伸ばしてみようという気も…気づけば削がれていく。
これが私の人生の末路なのか?
刺激のない日々は平穏で、自分のテリトリーの外に目を向けなければ辛いことなど見ずに済む。
━━『飽き』が来ることを知っていながら?
そんな時間を過ごすのは後悔するとわかっている。
だから私は自分の生活から見つけようとする。
キッチン、冷蔵庫、テレビ、本棚、物置、ゴミ箱…なんだっていい。
私の目を惹くような、宝物が放つ『きらめき』を見つけに行こう。
容姿が良くなくて、頭も悪く、運動音痴。
友達もほとんどいなくて、親も自分をわかってくれる存在ではない。
SNSでもフォロワーが少なくて、見向きしてくれる人は皆無。
━━それでも、
手元にあるスマホ、タブレット、ノート、スケッチブック。
これらは私が今まで数年かけて作り上げた『物語』の結晶。絶望の淵に立たされた私を何度も救ってくれた存在。
プロットが書かれたメモ、完成したお話と作成しては数えきれないくらい没にしたお話、キャラクターイラスト、資料探しのための膨大な検索履歴…
誰にも見られることもない拙い『物語』だが、今でも『輝き』は鈍っていない。
『物語』は『心の世界』。もはや私の心そのもの。私が生きる世界。
『心の灯火』は未だに消えていないから、外の世界で見向きされなくても━━大丈夫だと、言い切れるのだ。
不完全な僕は、お腹が空く。
お腹が空くと何かを食べる必要がある。
わずらわしい。なぜ空腹感が作業を邪魔するのか。
何も食べなくても生きていける生物になれたらいいのに。
不完全な僕は、眠たくなる。
眠たくなると横になって眠る必要がある。
わずらわしい。横になるだけなのにかなり時間を取られる。
眠らなくても生きていける生物になれたらいいのに。
不完全な僕は、寂しいと感じる。
寂しいと人とのつながりを再確認する必要がある。
わずらわしい。仲間が迷惑してるはずなのに自分勝手に会いに行ってしまう。
寂しいと思わないような生物になれたらいいのに。
食事も、睡眠も、誰かとのつながりを必要としない存在。
そんな完璧な存在は…『神』だけだ。
不完全な僕が存在するこの世界は、思った以上に面倒なんだなぁ。