「行かないで」
そんな言葉は虚空に消えた。
天使に恋をした。
それは叶わないと知っていつつも、それ以上に君は美しく、愛らしく、艶やかだった。
巡り会う度、君に同じことを聞いた。
「傍にいさせて」
君は決まって
「なりません、天使の翼がもげてしまいます」
と返す。
それでも諦めきれない。10年、100年、1000年先でも良い。いつか、君を掴むから。
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あの人は、何百年と、私に言い寄って来る。
本当は嬉しい。けれど、私はあの人と結ばれてはいけない。これは天使の掟。
...それでも、あなたが私を、10年、100年...1000年先までも求め続けてくれるなら。
私の翼はもげてもいい。
きっと明日も、会えるから。
私はみんなに「またね」って言う。
みんなは私に「またね」って返してくれる。
こんな素敵なことはあるだろうか。
なんの心配もなく「またね」が言える私たちには、「さよなら」の気持ちが分からない。
けど。
卒業式の今日。もしかしたらその気持ちを分からないと行けない日が来たのかもしれない。
けど。やっぱり。
「さよなら」じゃなくって、「またね」でお別れしよう。
きっといつか、会えるから。
突然の通り雨で濡れてしまった。
いけない、どこかで雨宿りしなくちゃ。
とりあえず近場のコンビニへ駆け込み、体を拭くタオルとビニール傘を手に取ってレジに向かった。
ああ、雨なんてひとつもいいことがない。
こんな風な天気でいい気分の人なんてごく少数派だろうな…。
コンビニを出ると、隣のクラスの子を見かけた。
部活も一緒だし、男子にはすごく可愛いって評判の子だけど、あまり話したことは無いし、みんなその子を変わってるって言うから、話しかけづらくもある。
その子は傘をささずに濡れながら歩いていた。その表情に陰りを感じたので、少し迷って、そっと話しかけてみた。
「ねえ、私の傘入る?」
「いいよ、私雨が好きだから。」
確かに変わってるって思う。でも、それ以上に、雨はこの子を飾り立てているようにすら思えてくる。確かにこの子には雨が似合う。
「そうだ、駅まで一緒に行こうよ」
この雨で、この子は磨かれているんだろう。それにこの子は悪い子に見えない。
「いいよ、行こ」
雨の日の出会いに、かけてみるのもたまにはいいかもしれない。
君とずっと対等になりたかった。
いつも、君は誰よりも、何よりも輝いていた。宝石なんかでない、太陽の輝きにあまりにも近い君のとなりに、私はいていいのか。
きっと、私は月だ。君がいるからみんなに気付いてもらえるんだ、とやるせない気持ちで胸が一杯になってしまった。
でも、君にはとてもそんなこと言えない。
今日も私は、太陽に照らされ光る。
いつか輝きを纏い、君のとなりに並んで、心からの笑顔で笑えたら、その笑顔で君を照らし返せたら。
君にさよならを言う前に、少しだけ時間が欲しい。
あまりにも心の準備が出来てなくて。
「嘘でした」
って、笑ってくれてもいいんだよ、
「見たことない表情してんね」
って、茶化してくれたっていいんだよ。
そんな風に、だんまりされると、私も心の整理をしなきゃなんだなって思っちゃうよ。
そんな急にどうしたの。
一体いつ、君はなにか悪いことをしたというの。
いい加減に口を聞いてよ。一緒に花火したいねってつい最近言ったのに。行きたかったお店にも、一緒に行けなきゃ意味が無いよ。
そろそろ目を覚まして。
それか、これが丸ごと夢であって、早く醒めて。
永い眠りにつく君に、なんて声をかければいいの。