今日も冷たい風が吹き付けている。
首元をマフラーに埋めて人通りの多い商店街を抜けていく。
風が吹く度、足元の木の葉が舞い上がり、くるくると空を飛び、少し遠くに着陸する。
遠くの空を、タオルが泳いでいる。誰かの家のベランダから脱走したみたい。
海月みたいにビニール袋が浮かんでいる。ふわふわと漂うそれは、電線に引っかかってしまった。
風のいたずらで、少しだけ空が賑やかになっているみたい。
昔から歌が好きだった。
喜びも、怒りも、悲しみも、楽しさも、その全てが私の歌だった。
いつからか、生きていくことに意味を必要とされるようになった。みんな立派な目標を掲げて、自分が生きていく意味のある人だと証明し始めた。
私の歌は、生きていく意味になるのかな。
歌は、ただの娯楽だ。好きで歌っているだけだ。
何度となくそう言われてきた。
その度、私は自分をそっと殺した。
私の歌を大好きと言ってくれた君。
私の全てが、それだけで認められた気がした。
今日もそっと目を閉じる。
歌を瞼の裏で口ずさみながら。
昨日より強い向かい風に吹かれて、私の体は推進力を失った。
前は見えていても、進んで行くのが怖くなってしまった。
このまま後ろを見て引き返せば、追い風に変わって私を今までと同じところに帰るのを助けてくれるだろう。
それでも私は振り返りたくなかった。
私は、高く広がる蒼い空を泳ぎたいから。
追い風に向かう時の方が、高く飛べるはず。
追い風に吹かれて飛ぶ木の葉より、風に抗い飛ぶ鳥になりたいから。
向かい風に向き合い、地面を強く蹴った。
幸せとはなんだろう。
高くて素敵なディナー?色んなところへの旅行?欲しいもの全てがあること?
裕福な人々がきらびやかな宝石を纏い、ブランド物の服で身体をデコレーションしている。それはそれは、満たされた表情で街中を闊歩している。まるでそれを、幸せだと言いたげに。
でも、きっとそれだけが幸せではない。
日常のささやかな喜びは、おそらく何より暖かな幸せだ。
欲しい本を買った。
私はひどく、満たされた。
なんて幸せなんだろう。
昨日何時に寝たか。
今朝の朝食は何か。
最近暇な時してることは。
そんなとりとめのない話を、ゆっくりしたい。
生憎、最近は課題の途中で寝落ちして、寝た時間なんて覚えてないし、朝食も食べる時間がないからとってない。そんな調子で暇な時間なんてない。
こんなに忙しいのはわたしだけかは知らないけど。
時間は何にも変えられないと、今更痛感する。
忙しいこのときを、いつかとりとめのない話として口にできるまで、もう少し頑張ろう。