その音が鳴ると
もう一度鏡と見つめ合って
“大丈夫”であることを確認する
そして
22:46と浮かび上がる液晶を
真っ暗にした部屋の中で視界に入れ
着信の通知を盗み見る
その瞬間が罪深く甘い
緩みそうになる口元をきゅっと結んで
暗闇の世界へと踏み入れる
階段を降りるリズムに合わせるかのように
心臓も強く脈打つ
コン、コン、と助手席の窓を鳴らす
無音の車内に座ると
頭にあたたかな手のひらが触れた
おつかれ
とだけ言って離れていく大きな手
それはいつもの出発の合図
過ぎゆく街灯の微かな光さえ
いやに反射させる薬指の金属
絶対に外さないその輪っかにさえ
救いようもないほど私の心は熱くなっていく
溶けてしまえそうなほど
溶けてしまいたいほど
心の中の風景は
今の私が見ている風景のすぐそこに貴方がいる、
そんなありもしないもの
それはいつまでも心の中にだけ存在する風景
許されざること
知られてはいけないこと
何気ない日常であろうと
旅先の見知らぬ街でも
横断歩道でも
海でも
貴方が隣に居たら
そのすべてが
どんな風に見えるか
って
見知らぬ街
それは、貴方の住む街
こんなとこあるんですね、
と私が呟くと
うん、俺も最近知った、
と答えた
奥様とよく来られるんですか、
とは呟けずに
少し開いたままの口へ
ペットボトルを近づける
緊張で乾いた口の中が
ほんの少し潤う
どう?最近は
といつものように呟いた声に
妙に懐かしさを感じて
つい頬が緩む
それに気付いた貴方はまた、
ニヤリと笑って
なに、
と呟いた
ふふふ、と笑うと
ふふふ、って、と真似をされた
終わるのが惜しい
もうさ、惚れないわけないんだよ
貴方という人に
人として、ほんとうに惚れてるんだよ
ああ、馬鹿になって
「え?????めちゃくちゃ惚れてるけど!!!!!!!」
って言っちゃおっかな
あーあ。
19:48
問題のない時刻
見慣れた車からの見慣れない景色
これは偶然
これはどう考えても偶然
指摘されるような問題は一切無い
ハンドルを握る貴方のただの気遣い
少しの無言が心地悪い
何か話さなきゃとぐるぐる考えても言葉に詰まる
赤信号で止まり、少しして貴方の声がした
「あと30分くらい、です」
「...はい、なにとぞよろしくお願いします...」
あと30分も一緒に居られるのかあ、
そんなことを考えた
顔が熱くなりそうで貴方にたずねる
「窓少し開けてもいいですか」
「うん」
青信号に変わりゆっくりと動き出す
生温い風を感じて
貴方の隣を感じた