ちぇっ……なんでよりによって
コイツと相合傘なんだよ
「そんなあからさまに嫌な顔するな」
「だってえー俺のはじめての相合傘ぁ〜」
「そんなに嫌ならびしょ濡れで帰ればいいだろ」
「……すんませんっ、入れてください!」
天気予報、雨なんて言ってたかな〜
ミスったな〜
「つーかお前の傘デカイな!めっちゃ良いヤツっぽい」
「父さんから譲り受けた」
「ほぇ〜かっけえな」
「……そうかよ」
「お前のお父さんが、な」
「……分かってるよ」
言われなくても分かってるよ
俺はかっこいい部類の男じゃないってことくらい
「んまあ!でもお前にもこの傘似合うな!入れてくれてあんがとな!マジ助かる!」
分かってる
こういうところがずるいって
底が無ければ
止まることなく
どこまでも
いつまでも
落下し続けていく
落ちていくことを
楽しんでいるかのように
もしも突然、底が現れたら
跳ね返るのだろうか
弾け飛ぶのだろうか
一瞬にして砕け散るのだろうか
この思いは、どうなるのだろうか
また1年経ったときに
今の激動を懐かしく思うのだろう
今だって1年前を懐かしく思う
早いなぁ、とも思う
だからきっと今のことも
そうなってくれるだろう
その為に今を生き抜くのだ
街で見かけたアイツは
自分には見せない笑顔で
大事な彼女に手を繋がれ
猫を被っていた
俺は嫉妬している
きっと俺と会っているときの方が
アイツの本性が現れているという自負があった
けれど思い返せば
あんな無邪気な笑顔を俺には
見せるはずがなかった
ああ、くそっ。
今すぐぶっ壊してえ。
そんな猫被りの笑顔なんて
作れなくしてやる
カーテンを開ける音がした気がした
直後にまぶたの先に光を感じた
ゆっくりと目を開けると
まだ見慣れない天井だった
あ、そうか、泊まったんだった
宿主の姿を完全には開き切れない目でやっと探すと
先程カーテンが開かれた窓際に立ち眩しそうにしていた
「まぶしくないの」
起きたばかりの掠れた声でつぶやくと
「まぶしいね、おはよう」
とこちらを振り向きながら答えた
私にはその笑顔が眩しかった、なんてね
「おはよ、」
と眠い目を擦りながら返すと
宿主は私がまだ重い頭を沈めている枕元に膝をつき
髪を撫でてくれた
まるで朝日の温もりのような穏やかな手で