例えるなら僕は午前2:41、彼女は午後2:41
例えるなら僕は土砂降りの雨、彼女はお天気雨
例えるなら僕は枯れ草、彼女は春爛漫
例えるなら僕はあなたが必要、彼女は
忘れたくないことが多い
この名前をなぞってから
「思い出」というものが
僕にポコ、ポコ、と生まれる
日常がすぐそこにあるのに
僕のものじゃないみたいだ
今日も朝一番に聞こえるのは
鈴が鳴るような声の
「おはようございます!」
忘れたくないことが、多い
こんな時間になっちゃいましたね
助手席に座る彼女が
フロントガラスから空を見上げながら言った
そうですね、でも日も長くなってきましたよね
赤信号
彼女にならって少しだけ空を見上げた
まあでも買い出しもいっぱい出来ましたし、新しいメニューも生み出しちゃいましょう!
ええ、もちろんですよ!
僕らの買い出しはいつも大量の荷物になって
いつも予定の時間をオーバーする
彼女と居ると時間が足りないと思うことがある
なんか、時間足りないですね
自分の考えていたこととシンクロするように呟いた彼女の方を見ると
夕日に照らされた髪とまつ毛がキラキラとしていた
信号が青に変わる
アクセルを少しずつ踏み込む
僕も、そう思います
とは言えずに運転に集中するように口を閉じた
「なんか、今日星がきれいに見えますよ!」
外から聞こえてくる鳥の声が気になってリビングの窓の方へ行った彼女が、カーテンを少し開けてそう言った。
キッチンで洗い物をしていた僕は、一旦手を止め、手についた泡を洗い流してから、彼女のところへ向かった。
「ほらー!」
僕が近づくと彼女はそう言って、カーテンを勢いよくシャーっと開けた。
「本当ですね」
今日、彼女が昼間出かけている間に部屋の掃除をした。
そのときに少々窓の汚れが気になり、どうせなら、と窓全体を綺麗に拭いたところだった。
あまり変化は感じられないだろうけど。
ただ、それで空がきれいに見え、彼女も喜んでくれるなら気付かれずともやって良かったと素直に思えるのだ。
「流れ星でも流れそう!」
彼女はその瞳を星のようにきらきらとさせている。
「見逃さないようにしないと」
そんな彼女の純粋さに乗っかって、真似るように窓に顔を近づける。
すると彼女が唇に触れそうなガラスを曇らせながら囁いた。
「見逃しませんよ。窓の掃除、ありがとうございます。」
「夢って見ます?」
いつもと同じ声のトーンで突然の問い
「僕はあまり見ないですね、よく見るんですか」
「私もあんまり見ないですけど、昨日は何だか変な夢を見て...」
彼女は少し俯いて、耳にかけていた髪の束がサラリと頬を撫でた
「変な夢、ですか」
「そうなんです...、笑わないでくださいよ?
...1つだけ願いが叶いますって書かれた葉書が届く夢で、
その余白に願い事を書いて返信すれば叶うって」
真っ直ぐな瞳で僕を見る
「へえ、面白い夢ですね。それで何と書いて送ったんですか」
「それが、夢の中の私ったら、───」
、────
ピピ...ピ...
目覚ましの音が聞こえた
まだ瞼の裏に夢の中の彼女の残像が見える
夢か......
何を願い事にしたのか分からずじまいだな...
1つだけ願いが叶う葉書か...それなら僕は、