『届かぬ想い』
痛みと苦しさから解放されたと同時に
私の中から小さな命が消えてしまった。
誰にも、どうすることも出来ない事だと、
わかってはいるものの
「どうにか出来たのではないか」
と、思わずにはいられなかった。
小さくてまだ宿ったばかりの愛しさを
突然失われる悲しみが
どうしても納得出来なくて。
ひとしきり、悔やんで、泣いて、怒って、、
あなたを抱きしめたかった。
家族でたくさん触れあいたかった。
あなたの成長をずーっと見ていたかった。
でも、それはまた今度。
もう一度、会いに来てくれるかな?
そしたら、この届かぬ想いをあなたに伝えられるから。
ママはずーっと…待ってるからね。
『バカみたい』
「別れた方がいいと思う」
薄暗い車の中で言い放たれた刃が、ひどく深く突き刺さったのは覚えてる。
後はただただ子供のように泣きじゃくり、困らせていたことだけ。
仕事が忙しく、ドタキャンや短時間のデート。
自分本意なあなたに愛されているのか不安になるばかりだった。
そして、その不安は見事に当たる。
もう私の所に二度と戻らない想いを知り、
「もう連絡しないし、連絡しないで。」
最後まで仕事を言い訳にするあなたに半ば呆れながら、それでも愛しい想いを残したまま…
私たちは静かにスマホから互いの存在を消した。
それから半年。
街で貴方に会った。
小柄で可愛らしい女性と小さな小さな赤ちゃん。
「いつも主人が……」
女性がそう口にした瞬間、全てを察した。
いや、始めからわかっていた。それでも何処かで信じていた。
始めから、あの人は私に、想いが無かったのだと。
「バカみたい」
中睦まじい家族と離れてから、ポツリと呟く。
バカみたいに恋をしていた。
それが一方通行だったとしても、私はバカみたいにまっすぐにただ1人を想っていたんだ。
そんな自分を誇らしく思いたい。
『二人ぼっち』
少し開いた窓から優しく冷たい風が入る。
目を閉じて息を吸って、
それを身体中に染み込ませてから
読んでいた本を机に置いた。
目の前に置かれていたカップから、
微かに白く弱い湯気が立つ。
「冷めちゃった?」
口に含む前に聞かれたので、
何も言えずに声の主を見つめた。
「冷めてると思う」
そして、少し飲み込んで
「まぁ、まだ少しは温かいかな」
と、強く湯気を立たせているポットを持つ彼女に手の平を向けた。
入れ直してくれようとしていたけども、私は猫舌なので『ぬるい』くらいがちょうどいい。
こんな感じの、まだ『ぎこちない』私たち。
なかなか周りからは受け入れ難いようだけど、
このまま、ゆったりと過ぎる時間を二人で過ごすのはとても素晴らしいことだと思う。
一人ぼっちだった私たちが、二人ぼっちになったのはごくごく自然なことだから。
『夢が醒める前に』
夢をみた。
私の天使を抱く夢。
ふわふわで柔らかい頬に何度も頬ずりして
何度も名前を呼んで
強く抱きしめて、離さないように…
いつまでも いつまでも続くように
朝日が昇る。
私の天使は空を見つめてる。
もう、さよならだね。
また会いに来てね。
夢が醒める前に
もう一度抱きしめて…