IROHA

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『バカみたい』


「別れた方がいいと思う」
薄暗い車の中で言い放たれた刃が、ひどく深く突き刺さったのは覚えてる。
後はただただ子供のように泣きじゃくり、困らせていたことだけ。

仕事が忙しく、ドタキャンや短時間のデート。
自分本意なあなたに愛されているのか不安になるばかりだった。
そして、その不安は見事に当たる。

もう私の所に二度と戻らない想いを知り、
「もう連絡しないし、連絡しないで。」
最後まで仕事を言い訳にするあなたに半ば呆れながら、それでも愛しい想いを残したまま…
私たちは静かにスマホから互いの存在を消した。

それから半年。
街で貴方に会った。
小柄で可愛らしい女性と小さな小さな赤ちゃん。
「いつも主人が……」
女性がそう口にした瞬間、全てを察した。
いや、始めからわかっていた。それでも何処かで信じていた。
始めから、あの人は私に、想いが無かったのだと。

「バカみたい」

中睦まじい家族と離れてから、ポツリと呟く。
バカみたいに恋をしていた。
それが一方通行だったとしても、私はバカみたいにまっすぐにただ1人を想っていたんだ。

そんな自分を誇らしく思いたい。


3/22/2023, 2:58:50 PM