『お兄ちゃんも忘れないでね』
「…ん?なんだこれ」
いつもの机の上に見慣れない花が置いてあった。
「あぁ、それ?お客さんの女の子がお礼にって言ってくれたの。ど?かわいーでしょ?」
社長がそう言ってニカッと笑う。その青い花はシンプルな花瓶に活けられていた。この部屋はカラフルな内装になっているため、逆にこのシンプルさがいいかもしれない。
…それにしても、この花を見てると胸がざわつく。なんだ…俺は何かを……
開けていた窓から風が舞い込んで、青い花が小さく揺れる。その時、俺の頭にとある映像が流れてきた。
ーー
小さい女の子が花畑を走っている。きゃらきゃらと小さい子特有の笑う声が耳に届いた。
「お兄ちゃん!これあげる!」
目の前に青い花の花束が差し出される。それを受け取ると嬉しそうに笑い、また駆け出していった。
ーー
「あぁ…!あ"ぁ"ぁ"ぁ"……!!」
「ど、どうした!?」
「大丈夫!?」
蹲る俺に、社長と、今帰ってきた従業員が駆け寄ってくる。
なんで、なんで俺は忘れてたんだ…。こんな大事な妹のことを……。
「ごめん…ごめんな……」
縋るように青い花に手を伸ばす。その青い花は変わらず凛と咲いていた。
「ごめんな。こんなところしか連れて来れなくて」
「ううん!すっごい楽しいよ!わたし、今日のことぜったいに忘れない!
だからね、」
【勿忘草(わすれなぐさ)】
『心を溶かすもの』
ブランコに座り、前後に小さく動いてみた。静寂の夜に、キィキィという鉄の音だけが響く。ここは周辺に住宅が少ない公園なので、夜に大人がブランコに乗ってたとしても通報はされないだろう……たぶん。
彼氏に振られた。昨日の夜、突然メールが来たと思ったら"別れよう"の4文字。急いで電話して訳を聞いたら「だってお前、全然嫉妬とかしてくれないじゃん。俺がいなくてもいいんだろ」って。電話を受けてから全然理解できてなかったけど、今日仕事が終わって帰り道を歩いてたら急に振られたということを実感し、今に至る。
じわじわと込み上げているものを我慢していると、急に頬に温かい、いや熱いものが押し付けられた。
「わっ!な、なに!?」
急いでブランコから立ち上がり警戒すると、「悪い悪い」という声が聞こえた。声のほうに向くと、幼なじみである男が立っていた。その手には日本のココア缶。さっき押し付けられたのは、それだろう。男は隣のブランコに腰掛けた。私もブランコに座り直す。
「ちょっともうなにー?びっくりしたんだけど」
「いやぁ、なんか悲しそうな顔してんなーって思ったから元気づけてあげようと思って」
何かあった?
そう首を傾げて聞いてくる彼に、じわりと目の前がにじんだ。そうだ、この男には今まで色んなことを相談してきたんだ。もうこの際、全部言ってしまおう。そう決断し、彼氏に思っていること全部ぶちまけた。彼はただ静かに聞いてくれていた。
「もう何よー!嫉妬とかめんどくさいとか言うから我慢してたのに!嫉妬してない訳ないじゃない!!」
そう言ってわんわん泣く私の目の前に、彼が立った。見上げると彼は真剣な目をしていた。
「…ねぇこんな時に言うのも卑怯だけどさ、俺にしない?」
「…へ?」
言われた言葉に戸惑って聞き返すと、彼は目線を合わせるように私の前にしゃがんで手を握ってきた。
「俺なら絶対に幸せに出来る。だから、俺と付き合ってください」
「…え、えぇ!?」
驚く私にふっと笑う彼。
彼の真剣な目と暖かい手に、私の心まで溶かされそうだと感じた。
【ブランコ】
【旅路の果てに】
【お誕生日】
「よし、準備OK」
部屋をぐるりと見渡す。壁には豪華な装飾、机の上には彼の好きな料理たち。いい匂いを漂わせる料理たちに頬が緩んだ。
今日は彼の誕生日。いつも支えてくれる彼に感謝を伝えたくてこんなに合成にしてしまった。
彼との付き合いは長いけれど、いつもこの時間は緊張してしまう。大丈夫かな、喜んでくれるかな?
その時、玄関の扉が開く音と「ただいまー」という声が聞こえた。私は扉の前に立ち、彼が来るのを待つ。足音がどんどん近くなっていくごとに、私の心音も早くなっていく。
そして、扉が開かれた。
「お誕生日おめでとうー!」
さぁ、あなたにとびっきりの感謝を
【あなたに届けたい】