『お兄ちゃんも忘れないでね』
「…ん?なんだこれ」
いつもの机の上に見慣れない花が置いてあった。
「あぁ、それ?お客さんの女の子がお礼にって言ってくれたの。ど?かわいーでしょ?」
社長がそう言ってニカッと笑う。その青い花はシンプルな花瓶に活けられていた。この部屋はカラフルな内装になっているため、逆にこのシンプルさがいいかもしれない。
…それにしても、この花を見てると胸がざわつく。なんだ…俺は何かを……
開けていた窓から風が舞い込んで、青い花が小さく揺れる。その時、俺の頭にとある映像が流れてきた。
ーー
小さい女の子が花畑を走っている。きゃらきゃらと小さい子特有の笑う声が耳に届いた。
「お兄ちゃん!これあげる!」
目の前に青い花の花束が差し出される。それを受け取ると嬉しそうに笑い、また駆け出していった。
ーー
「あぁ…!あ"ぁ"ぁ"ぁ"……!!」
「ど、どうした!?」
「大丈夫!?」
蹲る俺に、社長と、今帰ってきた従業員が駆け寄ってくる。
なんで、なんで俺は忘れてたんだ…。こんな大事な妹のことを……。
「ごめん…ごめんな……」
縋るように青い花に手を伸ばす。その青い花は変わらず凛と咲いていた。
「ごめんな。こんなところしか連れて来れなくて」
「ううん!すっごい楽しいよ!わたし、今日のことぜったいに忘れない!
だからね、」
【勿忘草(わすれなぐさ)】
2/3/2026, 2:42:35 AM