性善説を信じてる。そう簡単に人のことを傷つけられるはずが無いと。誰かが傷つけば自分の胸も痛むとかそんなことをいちいち考えてるわけじゃ無いけど、目の前で仲良く話してる人が裏で悪口を言いふらしてたりだとか、人の顔にランキングをつけるような真似をしてたりだとかそんな裏の顔は知りたくない。
だから、見ないふりをするの。
軽率な人は嫌い。誰にでもそんなふうな態度を取って、多くのうちの誰かが見返りをくれるだろうから。私じゃなくても。
ちょうどいい距離感で、さりげない気遣いで。こちらに踏み込んでこないけれど、踏み込みたくなるあなたが好き。
照れた時に手の甲を唇に当てる癖とか、酔っ払った時に一人称の発音が変わることとか、左目の二重幅の方が少し広いこととか。そんなどうでもいいことには気がつくのに一番大事なことには気づけなかった。
好きでもない女に気軽に触れてくるあなたをどうして軽率じゃないと思っていたのだろう。
私の期待を込めた視線を受け止めながらあたかも自分は寂しい男のように振る舞えるあなたをどうして自分と似た人だと思っていたのだろう。
こんな自分を隠さなくてもいいと思えたのに、あなたは上手にそれを隠していた。
「好みのタイプは自分を持っていて、まっすぐな人かな」
違う、そんなことを言って結局あなたに肯定的な人がいいに決まっている。
「好きな人がいるんだ。相談乗ってくれる?」
違う、あなたは本当は私のことが好きで好きな人は私だったというオチでしょう?
「彼女ができたよ。だからもう会えないかな。」
違う、例え他に女がいたって本当は私のことが好きなはず。
夜空には一番星だけが光っていた。私は目を閉じた。
『君みたいな優しくてちゃんと話を聞いてくれる子が好きだよ』
『友達みたいな関係から始まる恋が理想かな』
『ねぇ、そろそろ付き合わない?』
目を開けたら涙と一緒にこの夢は流れてしまう。
「で、そこで言ってやったのよ。あんたみたいな男、こっちから願い下げだって!」
サイコー!と歓声の声が上がり、笑い声が部屋に響き渡る。失恋したばかりの友人、美奈子を元気づけるために計画された一泊二日の旅行は大正解だったみたいだ。ひと月前、夏休み前のテストが終わり解放感から飲みに行ったあの日、美奈子は酒が入り事の顛末を話した。
ー彼が浮気しているかも。
そっけない態度から始まり、彼の手から離れる事のない携帯電話、見覚えのない化粧水の試供品ゴミ。パーマでぱっちり上がったまつ毛を震わせて話す彼女にしんみりとした空気になる。彼に突き止めろだの、そんな奴捨てて次に行けだの好き放題言った後にお調子者の由貴が提案した。
「じゃあさ、旅行行こうよ。男なんて放っておいて女だけで!」
飲みの席の提案は案外日程も計画もすんなりと決まる。じゃあいつものメンバー6人で!と盛り上がり、場所は遠い避暑地、北海道に決まった。レンタカーで広大な土地を巡った後は、借りたコテージでバーベキューという流れだ。
「もう男なんていらない!みんながいればいいんだよ!」
興奮して声を上げる沙代の手には3本目のチューハイが握られている。
「男なんていた事ないでしょ」
すかさず肉を焼いていた里香が突っ込みまた笑い声が上がる。
単位を取るのが難しい、と言われていた必修科目は皆んなで過去問を貰ったり、休んだ授業の内容を教え合ったりして乗り越えた。出身地も性格も趣味もバラバラなこの6人が仲良くなってこうして遊んでいるのはなんだか不思議だ。感慨深い思いでみんなの顔を見渡す。
「ねぇ、写真撮るからこっち〜」
前髪を整えながら舞花がスマホを構えた。
「はい、チーズ!」
ああ、ずっとこのまま時が止まったらいいのに。