※微ホラーかも
「透明標本」が大好きだ。
生物の肉質を透明にし、骨格を見えるようにする。
骨格研究の手法として生まれたそれは、もはや芸術作品。
本来の用途は骨格観察なのだろうが、私にとってこれは1種の絵画鑑賞に近い。
皆がダ・ビンチやピカソやモネを見て感動するように、私は透明標本のひとつひとつに感動する。
魚類も爬虫類も鳥類も甲殻類も…………普段肉で覆われて見ることが出来ないその下にある骨は、こんなにも美しいのだ。
小さな瓶の中に浮かぶ赤や青に色付いた鮮やかな骨と美しく虚ろな眼窩に、おそろしく惹かれる。魅了される。
きっと〝ヒト〟の透明標本も
とても、とても、とても、美しいだろう
大切に書棚に飾ってある作品たちを見ながら、私は次に制作する標本に思いを馳せることにした。
優しくて
年上のきょうだいみたいで
同じもので笑えて
でも時に厳しくて
辛い時は支えてくれて
お互いそうやっていける
そんな理想のあなた
唯一の欠点は………そうね、
スクリーンから出てきてくれないことかしら。
「永遠に続くものなどない」
充分にわかっていたつもりだった。
この楽しさや幸せにも、いつかは終わりが来るとは思っていた。
けれど、本当に、こんな唐突にそれがやってきて、あまりにもあっけなく日常が崩れるとは思っていなかった。
あんなにも受信メールを開く手が震えたのも、
開いた画面を見て本当に崩れ落ちたのも、
無意識に何の意味も持たない言葉で叫んで泣いたのも、初めてだった。
最後に見たのはいつも通りの優しい声と美しい笑顔だったから
こんなにも突然別れが来るなんて考えてもいなかった
今でもまだ、夢ではないかと
目が覚めたらまた会えるはずだと
「受け入れられた気がする」なんて言ったくせに、心はいまだにぐちゃぐちゃだ。
心に深く空いたこの穴は、もう一生埋まることはないのでしょう。
かれこれ10年ほどになるだろうか。好きな人がいる。
恋愛的な意味合いとして………と断言したいところだけれど、この気持ちが本当に恋愛感情なのかは正直なところ、今は怪しくなっている。
最初は膨大な知識に対しての尊敬と、こんな兄がいたら良かったなという憧れだった。
それが段々と、一緒に何かを体験したい、一緒に居たい、抱きしめて欲しいという気持ちに変わっていき、ある日「私はこの人が好きだ」という自覚に至った。
しかし、好きと言うにはあまりにも、良き友人としての関係が長く続きすぎていた。
本人から恋愛には全く興味が湧かないとも言われていた(実際、はたから見ていてもそう思えた)し、今更「あなたが好きです」なんて言える勇気はなかった。
一度だけ、人づてに彼に伝えてもらったことがあった。
後日あれはどういう意図かと問われ、関係が崩れるのを恐れた私は冗談半分に返事を濁し、とても叱られた。
今は自分でも愚かな行為だったと思うが、当時は好きという気持ちを伝えたいものの、その結果によって友達という立場も失うかもしれないという怖さも大きかった為、パニックみたいになっていたのだろう。
叱られたことがショックだったからか、これ以降私は告白はしていない。完全に自業自得だけれど。
それから数年。
現在も、私は彼と良き友人関係だ。
彼のことは未だ好きだが、その気持ちに最初の頃のような熱量があるかと言われたら無いだろう。
出会って、好きになってから10年以上。
今ではこの〝好き〟が恋愛なのか親愛なのか友愛なのか、はたまたそれ以外の何かなのか、私自身にも分からなくなっているのだ。
それらを全部含めた好き、なのかもしれないが。
きっと彼には今、大切な人がいる。
そう感じてはいるが、怖くて聞けない。
もし「いる」と答えが返ってきたら、間違いなくショックを受けるし、悲しくて立ち直れないような気がする。
だから、まだ。
捻れて複雑になってしまった〝好き〟だけれど、この気持ちは恋愛感情なのだと、思う。
自分から踏み出せない臆病で卑怯な私にはお似合いなのかもしれない、この歪んでしまった恋物語は、こうしてまた今日も続いていく。