先程まで明るかった(と言っても夜空だが)空が、一気に暗くなる。
明るすぎる光の点滅が地上を照らした数秒後、低く唸るようなゴロゴロゴロ……という音。
そして再び、ビルのネオンより明るい光。
その光は、廃墟の端で息を潜める私の姿もくっきり映し出す。
地面に浮かび上がった己の影に、思わずびくりとしてしまった。
好奇心など出さなければ良かったのだ。
そう思っても後の祭り。
頬にポタ、と大きめの水滴が落ちてきた。
雨が 降るのか
濡れる前になんとかここを出たいが、出口が分からない。
おかしな話だと思うだろうが、私は本当に『どこから入った』のかも『どこから帰るのか』も分からない……というより知らないのだ。
気付いたらここに居て、アレに追いかけられたのだから。
そういえばアレはどこに行ったのだろう。
ポツリ
ポツリ
ポツ
だんだん雨粒が増えてきた。
土砂降りになるだろう。
このまま濡れるのも嫌だ。
とりあえずどこか屋根のあるところに…………
【み ィ つ ケ だぁぁ】
立ち上がった私の頭上からした、嬉しそうな声
あの時あんなモノを拾わなければ
前を歩くヒトを追いかけなければ
見たこともない駅で降りなければ
そうしたならば……
【ず ッ ト ずッと 】
【ソレほしほしほしか】
【コレ た べ タ うま カ タ】
そう言って口の中から伸ばされた手が見せてきたのは、
なーんだ。
あの時失くなった指じゃないか。
そうか
最初から決まっていたのかぁ
バクン
たとえ嵐が来ようとも、
きっとこの人は私を離してくれないでしょう。
だから私は、ずっとこの崖にいるのです。
嗚呼
だから私も
こんな腐った肉しかついていないのだ
※夏の怖い話月間開催中
連日の猛暑日に耐えきれないからと、海水浴を提案したのは誰だったっけ。
同じような考えを持った人々で溢れた海岸を見て、文句を言ったのは誰だったか。
ならばと、さほど遠くない川に変更しようと提案したのはどの人だっけ。
涼しくなるなら海でも川でも良かったしどうせ混んでるだろうなとは思っていたし車を出してくれているから感謝しているしさっき川辺に来る途中で備えられていたお菓子と花束を放り投げたのはアイツだし立ち入り禁止の札を叩き割ったのはあの人だし、そうだよ、私は何も言っていないししていないのに。
ねえ、
なんで私だけ
なんで私だけ、この子に引っ張られて沈んでいるのかしら。
※夏なので怖い話月間始めました!
ここではないどこかへいきたい
ここにはもう あなたがいないから
ここではないどこかへいきたい
ここではあなたにあえないから
ここではないどこかへいきたい
ここにいたら あなたのこえも かおも わすれていくから
ここではないどこかへいきたい
ここではない あなたのいるところへ
ここではないどこかにいる、あなたにあいたい
とてつもなく高い場所から下に落ちたら、地面に到達した時の自分はどうなるだろうか。
自殺願望がある訳ではないのだが、こうして高い場所から下を見下ろす度にふと考える。
高所恐怖症でも高所平気症でもない(と思う)が、高い場所から遥か下を見た時の、身体中を巡るなんとも言えないゾクゾク感が大好きだ。
何かいけないことをしてしまっているような背徳感と、少なからず命の危険がある事を本能的に感じているような恐怖。
そして、それらより多少上回る好奇心。
もちろん実際にやったら死んでしまう。
だからこそ、遊園地等にあるフリーフォールや渓谷にあるバンジージャンプが好きなのだ。
あれらは擬似的に落下体験ができるし、事故がない限りは死なないから。
「なるほど。だからキミは飛び降りが好きなのか。」
話終わると、隣に座っていた男はそう言って納得するように頷いた。
『言い方が悪いなあ!だから自殺願望はないって言ったのに。飛び降りが好きというより、あの浮遊感とか重力を感じられるのが好きなんだよ。』
「だからそれを飛び降りというんじゃ…………ああ分かった分かった、ごめんて。私が悪かったよ。」
不機嫌なのが顔に出ていたのだろう。彼は苦笑いしながら謝った。悪気がないのは知っているから、こちらもそれ以上文句は言わない。
それにそろそろ始めたいし。
腕を頭の上で伸ばしたり、腰を捻ったりするのを見ていた彼が「お、やるのか?」と楽しげに聞いてくる。
『そりゃやるでしょ。何のためにこんなとこまで来たと思ってるのさ』
「あはは、確かに愚問だったね」
そんな会話をしながら、1歩ずつ足を踏み出す。
下から吹き上げてくる強いビル風が気持ちいい。
ここはどんな景色を、感覚を味わえるんだろう。
『じゃあちょっと行ってくる』
「はいはい、今日も楽しいといいね」
『地上50階建てだよ?絶対面白いに決まってるさ!』
そう笑いながら空へ1歩踏み出し、今日もまたスリルを楽しむことにした。
「そりゃ自殺願望はないだろうね。今のキミなら、どんな場所でも、どんな高さからでも、いくらでも落下してスリルを楽しめるだろうさ。まったくキミみたいな人は初めてだよ。
死んでからもまだまだ色んな高さから飛び降りて、一番楽しい高さのを見付けたいなんて言うとはね!」