黄桜

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2/9/2024, 8:45:34 AM

皆が、笑う。綺麗に笑い、顔をくしゃりとして笑い、泣くように笑う、悔しさを隠すようにひっそりと笑い、無理に笑おうとして下手くそな笑みを浮かべる。
皆が、求めた笑い方。誰もが、普通と感じる笑い方、皆が、安心できる笑い方。
皆が、馬鹿にするから学んだ笑い方。それは、どれも納得のいく形にならなくて仏頂面に戻してしまう。
私は、彼のその下手くそな笑みが人間臭くて安心した。

彼の笑顔は素敵、私のスマイルは二の次。

お終い

2/1/2024, 10:38:52 AM

ブランコを最後に漕いだのは、いつだっただろうか。
私は、昔小さい頃ブランコが好きだった事を、家の近くの公園を見て思い出した。
幼稚園に、4つ並んだブランコがあったのだが、昼間は大抵年中の子達に独占されてしまうのもあって、私は外があまり好きじゃなかった。
そういう時間は、絵本を読むことで別世界に没頭して現実からは逃げていた。
そうする事で、少しでも孤独的な空間から離れることを選択していたのだ。
私は、公園の奥に2つ並んでいる内、左のブランコに座った。
あの日と違うのは背丈と座り心地の悪さだけだった。


ブランコは、私の過去の思い出を具現化してそこにいる。

お終い

12/21/2023, 1:19:45 PM

大空へと羽ばたいてみたい。別に死への願望があるのではなく自分の意識を保ったうえで、意志を持って大空へと羽ばたいてみたいのだ。
外はあまり好きでは無い、暑い寒いといった温度調節をするのに手元が狂ったような空気に、耐えるだけの器を私が持ち合わせていないだけだが、私はそれを自分じゃなく世界が勝手すぎるのだと結論づけている。
話が逸れてしまったが、私は外へ出るのをあまり好まない。だが外で唯一、好きなものがある。それは、遊園地のアトラクションで高所から落下するあの浮遊感である。
擬似的とはいえ、背中に羽が生えたようなあの感覚が恋しくて叶わないのである。

大空への翼を、私の背に乗せておくれ。

お終い

12/21/2023, 2:20:28 AM

喫茶店とかの扉に付いているベルの音って、不思議だと思ったことない?と中学時代からの友人が独り言のように、呟いた。
私は、それが自分に向けての問であることに数秒の時間を費やした。そして、脳がその言葉を認識した瞬間、自分達が喫茶店に入った時のベルの音が脳内に自動的に再生された。
私は、友人が何故その様に思ったのか。友人の求めている言葉を脳内を掻き分けて探し出す事にした。そして、自信は無かったが、神社とかでいう本坪鈴みたいな感じかと問うた。友人は、どうやら話題に乗っかてくれたのが嬉しかったのか饒舌に語り始めた。
極たまに聴く事こそが、ベルの音のいい所らしい。私には、理解できない領域だと思った。私は、ベルの音というと福引で何等が当たった時とか、クリスマスなどのお遊戯会でクリスマスソングを演奏する時とかに、使うイメージが頭に定着しているからだろうな。
どうやら、友人は話を終わらせる気は無いらしい。いいさ、気長に聞こう。なにせ、暇だから喫茶店に入ったのだ。

束の間の世間話のベルの音、積もる話にはならん。

お終い

11/24/2023, 11:37:56 AM

小さくなったセーターが、クローゼットの奥から出てきた。おそらく、五年ほど前に着ていたものだとサイズから判断した。
けれど、小さくなったそれを今の自分は着ることはできないし、何よりお下がりとしてあげられるほど、綺麗では無い事は明らかだった。ふと、自分の体にセーターを合わせてみたがやはり腕の丈が10cm程差があった。
自分が成長したのか、セーターが縮んだだけなのかはこれを着ていた当時の自分に聞くしかないが、私はそれを成長と結論づけセーターをひざ掛けに変えて使う事を決めた。

形を変えて、私と共に。

お終い

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