私の周りに来る人間はスリルを求めているようだ。私は、普通の人間に比べたら、感情の起伏があまりない。普通なら、怒るような事を笑って許してしまう。
だから、変な人間に好かれる。リストカットをしているのだと明かしてきた高校時代の知り合いが、どんな言葉を求めていたのかは知らないが、私は消毒だけは忘れずにしなよと行為そのものを否定する事はしなかった。
次の日から、その知り合いに付き纏われる事が増えた。他の人間と話していると割り込んで、私に話しかけるなとその口で吠えていた。
私は、心の中でうるさいなと思うばかりだったが、現実では急用でもあったのと、気付かないふりを装う言葉を口にした。知り合いは嬉しそうに、私の手を握り外で2人っきりで話をしようと持ちかけてきた。私が、返事をするより先に知り合いは私の体を引き摺っていたが、私は何も言わず流れるままに身を任せた。
知り合いは、私の許容範囲にスリルを感じている。
お終い
飛べない翼を持って生まれた私達。いつか、本当に飛べると思っていた子供時代。挫折を味わった中学時代。諦めを覚えた高校時代。夢とは違うものに追われた大学時代。
そして、社会人となりその飛べない翼を、もぎ取られた私は、社会の渦に放り込まれた。もう、私は飛ぶことを夢見ることすら出来なくなってしまった。
私は、必死に仕事をこなした。来る日も来る日も上司とパソコンに睨みをきかせていた2年後に、会社の同僚と結婚し子供を産んだ。
その子供は、私そっくりの飛べない翼を持っていた。
飛べない翼は必要だったのだろうか。
お終い
ススキは、古くから神様の依代として考えられているとそういう事にやたら詳しい教師が言っていた。
何故、そういう知識をパッと頭から引きずり出せるのかと聞くと、周りから頭良い奴に見えるだろうと如何にも中学生の様な回答が返ってきた。実際は、30代の教師だが心はどうやら中学時代を徘徊しているようだ。
そんなところで、1つ疑問に思った事を聞いてみた。神を信じているのかと、ところが返ってきた回答は見えないものは信じないタチだとドヤ顔で宣言された。あの時の、私の顔はおそらく酷く呆れた顔をしていたのだと思う。
でも、私も同感だ。見えないものに縋り付く人々の心境を理解しようと思った事はない。だって、もし神とやらが存在しているのなら人が殺しにかかろうとするからだ。人は理解のできないものを煙たがり、そして存在を撲滅しようとするのだ。
神を刈り取る。
お終い
追記
ススキ=神
柔らかい雨が私の肌から弾かれて下へ下へと滑り落ちていく。本当に今日の自分は運が尽きていると思った、と言うのもこの数時間前にも、同じような雨に降られたばかりであり、丁度、着替えを終えて帰ろうとした時に2度目の雨に降られたのである。
数時間前の雨のようにすぐ止むだろうと考えていたが、どうやらその考えはハズレたようだ。結局、私は近くのコンビニからビニール傘を買い帰路についた。
雨は、こちらの都合を伺わない。
お終い
永遠に、眠ってしまえ。どうして、私達が逃げ続けなければいけないのだろうか。逃げ場を探して逃げ続ける、こんな事、心の傷を隠す絆創膏にもなりやしない。
消してやる。お前達の隠していた存在だけを残して、お前が大切にしているものを全て失わせてやる。毎日、コツコツと研ぎ澄ましたナイフがその肉体も心さえも切り刻む瞬間だけを私は心待ちにしているのだ。
目を覚まして、白い天井と対面する。これの繰り返し、あんなに強気な言葉を、心では吐くことが出来ても私は病院のベッドから出る事はできない。彼奴らに、つけられた傷がマグマの溶岩のように煮えたぎって熱が発生しているのを感じる。その熱を冷ますかのように、私の瞼の隙間から堪えきれなかった涙が枕に流れ落ちていった。
永遠に、忘れねぇからな。
お終い