∮あいまいな空
毎日、丘の上にある家に帰る坂道を自転車で漕いでいく
いつもどおりの変わらない景色の中で
唯一姿を変えるもの
いつも空を見上げれば、365色のパレットが空を彩っている
ある時は朱々と染まる夕焼けだったり
ある時には快晴の星空が散りばめられていたり
何気なく見ている空を見て、ふと思ったことがある
『この空は、もう2度と見られない景色なんだ』
そう思うと無性に切なくなって、目一杯記憶に留めておこうとしてみるけど
3日も経てばその色は朧げで、あいまいだ
カメラ越しに遺したって、それは〝あの時〟の空なんかじゃなくて
だからいつも、そんなあいまいな空を眺めながら
変わらない景色だと思い込んで日々が過ぎていく
あなたは、昨夜の空の色を憶えていますか?
∮失恋
恋の終わり方には色々な形があるけれど
別れたからといって
必ず恋を失う訳ではないように思う
胸の中の灯火が、少しずつ、少しずつ、
小さくなって失われるのを待っている
でも、心から消えたとしても
いつかあんなときもあったなと
幸せだった記憶を思い出して笑いたいから
この名残は失いませんように
∮月に願いを
平安の時代、人々は今よりも遙か澄みわたる夜空を見上げ詩を詠んだ。
天の川でさえも燦爛と輝いて見えるだろう空へ
人々は月を謳った。
その当時に生きる者にとって月とは、
夜を照らす希望であり
別れを告げる余韻であり
共に空を仰ぎみる道導であった。
星に願いを祈る私たちは、月を見ているようで視れていなかったのかもしれない
何時だって月は、太陽よりも傍で私たちを見守っている
星を探して見上げる前に
お天道様に見られる前に
月に願いを
∮理想のあなた
理想ならいくらでも妄想を掻き立てたことがあった
まずは、勉強もスポーツもできる。
その〝できる〟になるまでに努力を重ねられる。
現実から目を背けずに真っ向から立ち向かう。
そしてその勇気が報われて実を結ぶ未来。
どれも叶わずにいる今が、どうしようもなく虚しい
手を伸ばせば届きそうなのにな
ねえ、理想の自分へ
あなたの見る景色はどれほど輝いてるの?
私もそこに辿り着けるかな
返事はない。その代わり、微かな希望を胸に抱いてる、
ありのままの自分が居た
∮真夜中
昔はあんなに苦手だった夜の暗さが、いつから味方になったのだろう。
今ではすっかり真夜中の虜になってしまった
目が覚めて眠れない時、丑三つ刻に至福の珈琲を1杯。
ふと、昔のことを思い出す
キャンドルの灯火を眺めながらぼんやりとしていたあの時と今で、何か変わったのだろうか
季節は移ろい、気持ちも虚ろう
真夜中の黒が思考を塗りつぶしてくれる夜は考え事に最適だ
夜は更けていく。