『 鏡』
鏡をじっと見つめる。
どれだけ見ても変わらない醜い顔。
泣いている時も笑っている時も、そのままの私を映し出す......
はずなのに、どこか作り笑いのような、瞳の奥が暗い。
なんで。。
こんなにも頑張って笑っているのに。
なんで上手に笑えないの。
不思議と虚しさが心の中に積もり、散らばる。
泣いていいなんて言葉は嘘で固められたもの。
1粒でも流してしまえば、弱くなってしまう。
辛くなってしまう。
バレないように必死に笑顔を作ってきたのに。
鏡の中に映る私は、心の中の私だった。
『 いつまでも捨てられないもの』
ごみ箱の前に持っていってわ迷う。
父の手紙。
父は私には興味がなく、いつも放っとかれていた。
話なんて続く訳もなく、家がいつの間にか落ち着かない場所になっていた。
父の言葉なんて一言も信じたことがない。
そんな人が亡くなる前に残した手紙。
ほんとうはこの世でいちばん愛している。
こんな父ですまなかった。
涙の染みた跡とともに書かれていた。
絶対うそだ。
綺麗事を言うんじゃない。
そう思い、ごみ箱の前に立つ。
でも、母がいない私。
どこにも信じられるものがなく、1人孤独に生きてきた。
心の底で、この言葉に縋りたいと思う私がいたんだ。
決心なんて言葉がないように、いつまでも捨てられない。
死ぬまでダメなんだ。
『君の奏でる音楽 』
放課後の音楽室。
どこか寂しげで落ち着くピアノの音。
まるで私みたいで、いつの間にか毎日放課後に行くようになった。
誰が弾いているのかも分からなかったが、こっそり端の椅子に座り聞いていた。
君の奏でる音楽は、私の救いにいつの間にかなっていた。
憂鬱な日も晴らしてくれて、死にたいと思った日ももう少し生きようと思えた。
ありがとう。
ピアノの隙間から見えた君の顔。
大人になってもおばあちゃんになっても、決して忘れないと思う。
『 麦わら帽子』
強い風が吹いて、髪がなびく。
麦わら帽子がふわっと浮く。
麦わら帽子を被る時は、必ずゴムひもを顎にかけなさい。
夏になると毎年言わていた。
きっちり守っていた私は消えて、お節介に聞こえてしまういま。
行くあてもないのに、家を出て知らない道を歩く。
後悔と不安、怒りが溢れてきて、自分の感情すら分からなくなる。
麦わら帽子で涙を隠す。
ふわっと懐かしい香りがして、涙が止まらなくなる。
もう帰ろう。
『 病室』
毎日変わらない景色。
点滴が少なくなっていくのをぼんやりと眺める。
いつ退院できるんだろう。
いつ自由に動けるようになるんだろう。
それとも、このまま死んでしまうんじゃないか。
不安と期待が積もり、しぼんでいく。
また、寝っ転がったまま夜がきて朝がやってくる。
これも、健康な証拠なのかな