『君の奏でる音楽 』
放課後の音楽室。
どこか寂しげで落ち着くピアノの音。
まるで私みたいで、いつの間にか毎日放課後に行くようになった。
誰が弾いているのかも分からなかったが、こっそり端の椅子に座り聞いていた。
君の奏でる音楽は、私の救いにいつの間にかなっていた。
憂鬱な日も晴らしてくれて、死にたいと思った日ももう少し生きようと思えた。
ありがとう。
ピアノの隙間から見えた君の顔。
大人になってもおばあちゃんになっても、決して忘れないと思う。
『 麦わら帽子』
強い風が吹いて、髪がなびく。
麦わら帽子がふわっと浮く。
麦わら帽子を被る時は、必ずゴムひもを顎にかけなさい。
夏になると毎年言わていた。
きっちり守っていた私は消えて、お節介に聞こえてしまういま。
行くあてもないのに、家を出て知らない道を歩く。
後悔と不安、怒りが溢れてきて、自分の感情すら分からなくなる。
麦わら帽子で涙を隠す。
ふわっと懐かしい香りがして、涙が止まらなくなる。
もう帰ろう。
『 病室』
毎日変わらない景色。
点滴が少なくなっていくのをぼんやりと眺める。
いつ退院できるんだろう。
いつ自由に動けるようになるんだろう。
それとも、このまま死んでしまうんじゃないか。
不安と期待が積もり、しぼんでいく。
また、寝っ転がったまま夜がきて朝がやってくる。
これも、健康な証拠なのかな
『 明日、もし晴れたら』
毎日が辛く感じる日々。
いじめなんてないし、とても平和なんだと思う。
だけど、なにか物足りなくて涙腺が緩くなる。
春がすぎて梅雨がやってきた。
まるで、あなただけが泣いているわけじゃない。
あなたには泣いている仲間がいるよと。
屋根にしずくがあたり奏でられる音楽。
なぜか落ち着く不思議な音。
明日、もしも晴れたなら空に向かってお礼を言おう。
おっきな声で、心を込めて。
私の代わりたくさん泣いてくれてありがとうって。
『 嵐が来ようとも』
なにかが私を襲ってくるのではないか。
お風呂の時も、ずっと考えていて小さな頃からとても怖かった。
幽霊が出たらどうしよう。
知らないおじさんが私を連れてっちゃったらどうしよう。
こんな物騒なことはなかったけど、災害は避けられなかった。
地震が襲ってきて、色々な家具が倒れた。
幼い私は大泣きしながら机の下でうずくまっていた。
パニックで、とにかく怖かった。
そんな私を兄が抱きしめてくれた。
避難する時も、おんぶしてもらった。
あの時の兄はどれだけ怖かったのだろうか。
この日から私のヒーローは兄になった。
嵐が来ようとも、兄は私を守ってくれる。
今も天国の上から。