『静寂に包まれた部屋』
何もかもが嫌になって投げ出したくなって、
耳を塞いでいた日々。
何を見ても、何を聴いても、何も知っても、
退屈だった。
楽しい気持ちすら、無くなった。
いつだったっけ?
とある日に道端ですれ違った人に、
自分が落としたハンカチを拾ってもらったことがあった。
その人はかなり遠いところから来ていたみたいで。
その人と今自分がいるところについて話したり、
ちょっとした悩み事を話したりしているうちに。
「そういえば、“透明空間”という名の休憩所、
見たことないかい?」
「いや…見たことないですね」
「おっかしいなあ…君、一度通り過ぎたことがあるはずだよ」
「え?なんで…」
「そろそろ家路につかなきゃいけない。私はこれで…」
そう言いながら、鈴のついた鍵を小さなカバンから出し、
去っていった。
透明空間…?休憩所…?
そんなところあるのかな?と思いつつ、
スマホのマップに「近くの休憩所」と検索してみた。
どうせただの休憩所しかないでしょ…と思ったが、
検索結果が出た。
error
あれ?電波でも悪いのかな?
ここらへん電波悪いなんて聞いたことないし…。
何回も検索してもerrorしか出てこない。
「…まあ、いっか。帰ろう…。」
そう諦めて帰ろうとした時、
鈴の音がした。
振り返ると、
“透明空間”と書かれた看板の休憩所があった。
「嘘でしょ…?」
恐る恐る近づいてみると、近くに猫が通り過ぎた。
猫は鼻先で、そっとドアを開けた。
猫は振り返り、鳴き声を出す。
入らないの?の言わんばかりの見つめ方。
“透明空間”に入ってみた。
一歩ずつ、歩を進めた。
何歩か進んでいくうちに、
通りすがりの猫はいつの間にか去って行った。
『別れ際に』
鏡を見た。
醜すぎる。
醜すぎるよ、
ジブン。
刺激ばかりに負けてばかりで、
強いと思い込んでた花は元々枯れていて、
ずっとずっと負けていたんだ。
そんな事も知らずに前に進んでいたなんて。
いや、前になんか進んでないね、
後退ばかりだ、後退ばかりしている。
いい加減にして。
鏡を割ってやろうか、
割れるものならやってみろ、
割れる気すらしない、弱気、弱気だ。
どっちが自分/ジブンなのかがわからない。
もう鏡なんて見たくない。
ジブンは本当に生きているのか?
そもそも自分すら生きていないのに、
呼吸すらしていないのに、
何故ジブンが存在しているのだ?
ジブンが自分を無くしたのか?
どこかに落としたのか?
本当の自分を見つけねば…
ジブンという存在が映る鏡から去る。
鏡を見ない。
振り返りもしない。
ジブン/自分と別れたのなら、
もうなにもない、なにもない。
別れ際に全て無になるんだ
無にするんだ
これから
…