「過ぎた日を思う」
今日は君の命日。そして私の誕生日。
わたし、もう20歳になったよ?あなたはずっと17歳のまま。
君と付き合って一年ほど経った冬の寒くて暗い夕方頃に
きみはわたしを庇ってトラックに跳ねられた。
キーー
ドンッ
グシャッ
キャーー
大丈夫かっ!?
誰かっ、誰かっ救急車っ!!
呼吸…してないぞ!!
頭から離れてくれない鈍くて心臓を刺すような声と音。
鮮明に覚えてる。
忘れきれない。
部活終わりの夕方、きみと他愛のない会話を交わしながら帰っていた。
そこに運転手が発作を起こし、ハンドルを掴めなくなったトラックが突っ込んできた。
きみは繋いでた手を一瞬ぎゅっとしてからわたしを押した。
ドンッ
だめだめだめだめだめだめだめ
まだだめ
そう心で唱えてもきみがもどっくることはなかった。
きみのは手の温もりに包まれた暖かい手が小刻みに震えてたのを覚えてる
「声が聞こえる」
もう聞こえないはずの声が聞こえる。
にゃー
君は呑気だよね、にゃーなんて泣いてさ、
こっちは先日、弟亡くしたっつーの
あれは事故なのか、事件なのか。
川に溺れてそのまま。
近くで遊んでいた弟の友達は、溺れていたのに気づかなかったらしい。
こんなことあるか?
見渡しやすい広い川なのに、溺れてるのが見えない聞こえないなんておかしいよ、絶対。
弟の声が耳から離れない。
いってきまーす
の声と、
笑顔でかけていった後ろ姿が、
一人でボロボロ泣いてると膝の上に乗り、
にゃー
と一言泣き、そのまま寝た。
ほんとに呑気だね。
「時間よ止まれ」
いつも通りの帰り道。
ふと君の住んでるマンションを見る。
よく見ると君の部屋の近くの部屋で誰かがベランダに立っている。
特に何も考えず、その人を見つめる。
その人は縁に登ろうとしていた。
ちょっと考えてみた。
こんな高い階のベランダに立って何をする気なのだろう。
嫌な予感が頭をよぎった。
自殺
その人をもう一回、よくみてみた。
ベランダに立っていたのはやっぱり君だった。
嗚呼、間に合わない。
リュックを投げ捨て、君に何度も電話を掛けて走る。
時間よ止まれっ
お願いだから止まってよ、
遅くて鈍い足を今までにないくらい動かす。
階段を駆け上がり君の元に急ぐ。
やっとの思いで部屋に辿り着いた。
鍵は空いており、無我夢中で部屋に入った。
窓から入る風でカーテンが揺れた、
それと同時に君の後ろ姿が見えた
まって
まって
お願いだから
今にも落ちそうな君を引っ張ろうと手を伸ばした。
その瞬間、君の姿が消えた。
漫画みたいに手なんか掴めないよ、
そのまま
グチャッ
鈍い音がした。
時間なんか要らない。
時間なんて苦しいだけだ________。
「夜明け前」
まだ太陽が昇ってない夜明け前の少しばかり明るいとき、君との逃避行が始まる。
2人で手を繋いで、行き先なんて決めてない、ここが何処だかも分からない。
そんな勢いに任せ、ただ走る。
君は無我夢中で涙をぼろぼろ流しながら走る。
きっと辛かったんだろう。
でもね、もう大丈夫だよ。
もう縛られないように、
もう泣かないように、
「喪失感」
大会にエントリーされなかった。
きっと誰よりも努力してるはずなのに。これが悪かった。
練習のしすぎて疲労骨折してたなんて気づきもしなかった。
ほんとに悔しくて辛いな、今まで積み上げてきた努力が砕けた喪失感で涙が止まんない。
年に一回しかない大会。いや、来年受験生のわたしにとっては人生で最期の大会。
絶対に出て優勝したかった。
テーピングとサポーターで筋肉質なボロボロの足を見てやっと気づいた。