『大好きな君に』
人が少ない体育館というのはいつも寒いもんだ。
そんな寒さもいつかは思い出になるのかな...
と溢れるように出るあくびをなんとか我慢しながら
リハーサルを進める。
ただ人数が多く、自分は呼ばれたら返事をするだけ。
代表で卒業証書を受け取るのは式が終わったあと
教室で各クラスで受け取る。
来週で卒業...か。
二階の窓から差し込む光に舞い上がっている埃が透かされる。
どうせ振られるのはわかっているけど、
せっかくなら思いを伝えるべきか...
代表の練習をする君の背中を見て
またあくびが出そうになるのを我慢した。
向こうから思いを伝えられることなんて無いだろうし。
...もう小春日和な季節になったようだ。
ほんと。時間が過ぎるのは早いな。
語り部シルヴァ
『ひなまつり』
ひな壇に雛人形...じゃなくてお菓子を並べて
ぼんぼりの明かり...の代わりにリンゴを添える。
娘はこっちがいいらしい。
娘が真ん中に座るとただの食いしん坊だ。
それでも普通のひな祭りをしていた頃よりかは
満面の笑みを浮かべるようになった。
イレギュラーだろうか。
男である俺には縁の無かった季節行事で、
嫁は毎年お腹を抱えて笑っている。
家族円満ならそれでいいだろう。
そう思いながらカメラを構える。
ひし餅を美味しそうに頬張る娘の表情は
未来でいい思い出として蘇るといいな。
語り部シルヴァ
『たった一つの希望』
今日も怒られた。
今日もバカにされた。
今日も責任を押し付けられた。
今日もゲームが上手くなれなかった。
あんまり良い一日とは言えなかった。
けれど今日はマシだと思う。
もっと悪い日が数日前あった気がする。
確か...痴漢と間違えられたっけな。
まあそんなことはどうだっていい。
嫌なことがどれだけ起きようとも僕にはノーダメージだ。
...冷蔵庫で眠っているコーラ。
無機物は裏切らない。
これが帰って飲めるなら明日も元気に生きれるんだ。
キャップを捻って炭酸が逃げる音、
喉に刺激を与えながら爽快感を残していく味。
あぁ、やっぱり最高だ。
語り部シルヴァ
『欲望』
"欲が無い"なんてよく言われる。
色んな種類のお土産を貰った時は最後に余ったものでいいし、
ご飯もお腹が満たされればなんだっていい。
別段「これがいい。」と思うことがない。
でもどうしても譲れないって時は僕にもある。
"自分が助けたい時には
どんなに自分を犠牲にしてでも助けたい"って時。
偽善者や自己満足なんてこれまたよく言われるだろうか。
別に気にしないんだけど、
何もしてないよりかはマシだと思うから。
譲れない時は誰に邪魔されようが僕は自分のしたい時を貫く。
...やっぱり欲あると思うんだけどなあ。
隣でブランコに乗りながらたそれがれる友人は
沈み掛けの夕焼け空を見つめながら独り言を呟いていた。
語り部シルヴァ
『遠くの街へ』
最低限の着替えと入るだけ入れた食料。
手回し式の充電器に、ナイフに財布。
荷物を入れてる途中に昼に殴られた時の痛みが現れて
救急セットを入れ忘れたのを思い出した。
かなり押し込んだけど、全部なんとか入った。
大きな鞄を買っていて正解だった。
今夜はそこまで冷えないらしい。出るにはうってつけだ。
もう時期春が来るって言うのに全然楽しみじゃない。
それもこれもこんな家にいるせいだ。
新しいお父さんが来てから全部狂い始めた。
...どっか遠くへ行こう。
大人はみんな信じられないから、
これから一人でなんとかするんだ。
玄関から取ってきておいた靴を履いて窓から飛び出す。
"さようなら"。 振り向かずまっすぐ歩き始めた。
振り向くとこの家での思い出が足を止めようとするから。
語り部シルヴァ