『誰よりも』
「別に、優しくないよ」
人助けをした君が優しいねと言われた時必ず言う言葉。
本人は別に褒められたいわけでも無く
ただただ困っている人がいたから力になろうと思っただけ。
だそうだ。
僕も同じく助けて貰って優しいと言った時にも
同じことを言われた。
もちろん周りからは感謝されるが
中には捻くれ者と後ろ指をさす人もいた。
それでも君は人助けを辞めることをしない。
人からの賞賛よりも助けれたらそれでいいと思っているから。
だから君は誰よりも優しい。
なんて言えばまた言われるだろうから心の中に押し込んだ。
語り部シルヴァ
『10年後の私から届いた手紙』
郵便受けに封筒が入っていた。
差出人は...自分だ。
手紙を書いた覚えも出した覚えもない。
そういう類のいたずらだろうか。
それとも新手の詐欺...?
封筒を開けて中身を読む。
平成...年。...月...日。
僕の生まれた歳だ。
血液型は...で...座。
高校生の頃...に恋をしていた。趣味は...
最初の掴みで自分が書いた手紙だと確信を得た。
まあ...当時の自分がどんな心境だったかを覚えているから、
全く周りの話を聞こうとしない自分に対しての
アドバイスをここで綴らせてもらう。
もっとも...自分の言葉すら信じない自分だから
意味があるかどうか...
読み終えたあと、せっかく準備したものが
全部無駄になってしまった。
だから未来の自分にどうやって
文句を言ってやろうかと少し考えた。
語り部シルヴァ
『バレンタイン』
「はい、どーぞ。」
表面は空気の塊が無かったのだろう
滑らかで亀裂が入っていない。
綺麗に4つに切り分けられ粉糖がかけられている。
恋人が作ってきてくれたチョコケーキは今年も美味しそうだ。
「年々上手くなってるよね。すごく美味しそう。」
そう言うと恋人は頬を指でかき恥ずかしさを誤魔化す。
最初の頃はチョコというか
ほぼ炭みたいなチョコケーキができたらしい。
食べてみたかったがさすがに
当時は言う勇気は持ち合わせてなかった。
今言えば怒られるだろうか...
そう思いながら一切れ取ってひとくち食べる。
...甘くて美味しいとしか言えない語彙力の乏しさに
悔やむくらいの味だ。
「お返し、はりきって作らないとね。」
恋人は笑いながら「楽しみにしてる。」と答えた。
語り部シルヴァ
『待ってて』
『寂しい。』
会話が一旦終わり、眠りにつくであろう深夜0時。
こんな時間に送っても迷惑をかけるだけ。
それなのにまた恋人に甘えてしまった。
すごく申し訳ないとも思うけれど、やめられない。
恋人になってから相手のことを思う度
この時間がどうしようもなく寂しい。
明日になったら会えるなんて言われるだろうか。
そうじゃない。今がいい。なんてわがままだろうか。
こんなこと送って呆れられるだろうか。
寂しさに不安が混ざる。
頭の中でぐるぐる悩み事が回っていると携帯が鳴る。
『待ってて。』
あぁ...恋人はこんなにもわがままな自分を許してくれる。
そんな優しさが好きで、時折恋人が壊れそうで怖い。
...今は恋人を信じて待つことにした。
語り部シルヴァ
『伝えたい』
オーブンが間抜けな音を出して止まる。
恐る恐る開けるとケーキの形をした
真っ黒な塊がプスプス音を立てながら出てきた。
見事に火加減を間違えてしまった。
予熱を入れすぎたか...
呼びにもう一個分残しといて良かった。
予熱の温度をしっかり確認してオーブンに入れる。
渡すのは明後日なのに練習だけでもすごく緊張する...
せっかくのイベントなんだ。どうしても伝えなきゃ。
オーブンは頑張って動いている。
さっき間抜けな音を出していたのに
懸命に動くオーブンを見て
頑張れと心で念じた。
語り部シルヴァ