『閉ざされた日記』
昔の箱が棚の奥底から転げ出てきた。
錠がついている...
部屋の隅々をくまなく探してみたが
合う鍵は見当たらなかった。
だから毎日整理整頓を心がけろとあれほど...
と頭の中のバカ真面目な自分が
叱責しながらも鍵を探すのを諦めた。
錠はかなり古臭そうだが壊せそうでもあった。
SNSでたまに見るライフハックを使い錠の破壊を試みる。
...錠は綺麗に壊れた。
中身は、"日記"と書かれた小さなメモ帳だ。
他の日記は片手に収まる程度のメモ帳に書き込んでいるのだが
この日記だけは厳重に保管されている...
兄は...何に怯えていたんだろうか。
死人に口なし。恐る恐るページをめくってみた。
語り部シルヴァ
『風のいたずら』
今日は風が強い...
ベランダから身を出して風を全身で浴びる。
冷たく乾いた風が体の熱を根こそぎ奪っていく。
血の気が引くような感覚がむしろ心地よい...
風が強いせいか空には色んなものが中に舞っている。
タオル...パンツ...シャボン玉...
そして羽の生えた人...人?
少しフリーズしていると目が合ったのか羽の生えた人が
僕に語りかける。
「あのー!すみませーん!
少しの間お邪魔してもいいですかー!?」
口で答えるより体が動き手を差し伸べる。
僕の手を掴んだ人がベランダに不時着する。
今日僕は羽の生えた人と出会った。
風が強い日は色んなものが飛ぶんだな。
そんな呑気なことを
奇妙な日常の一端を視界に映しながら考えていた。
語り部シルヴァ
『美しい』
今日は彼女と少し高めのディナー。
スーツはなれないが、格好ついているだろうか...
待ち合わせ15分前。
予定より早く着き、ショウケース越しに
身なりの確認をしていると彼女の声が聞こえた。
「おーい!お待たせ。」
.....!
「いやあ、ドレス思ったより手間取っちゃって...」
...
「でもお互い早くに着いたね。私も結構楽しみで早く来れてよかった。」
...
「ね。大丈夫?」
「あ、あぁ。ごめんごめん。
綺麗で見とれて声に出てなかったよ。」
なんて思ったの〜?とからかい気味に来る彼女を見て
幸せという2文字を早速味わえた気がした。
語り部シルヴァ
『この世界は』
正月に盛り上がりを見せた商店街も
今はピンクや茶色で飾ったバレンタインデー特集をして
チョコやお菓子の材料をでかでかと並べている。
早い。スマホでタイマーを起動させ
時間の流れを確認してしまうくらいには早いと感じる。
バレンタインデーが終わったら次はひな祭りだろうか、
それが終わったらホワイトデー...
やっぱり早い気がする。
時を加速させるスタンドでもいるのだろうか...
それについて行く人間もおかしな話だ。
やれやれ...人間だけじゃなくて
この世界もせっかちにいつの間にかなっていたようだ。
語り部シルヴァ
『どうして』
「な。なあ、その銃を降ろしてくれよ。」
冗談じゃない状況で無理に笑おうとして
口角が引きつっている。
その言葉に動じず銃を構える。
「俺の事そんな信用ないか?信じてくれよ。」
涙目になって必死に弁明する彼を見て沸き上がる怒りが
どんどん冷静になっていく。
「...じゃあ私のこと好き?」
「...!あ、あぁ!もちろんさ!好きだy」
答えを言い切る前に眉間と心臓両方を撃ち抜く。
「と"お"し"...て"...」
彼だったものは形を保てなくなって溶けていった。
彼は...自分のことは僕って言うし
外じゃ好きって言う勇気を持ってないチキン野郎だ。
彼はちゃんと生きているだろうか...
私ができることは偽物を撃ち抜いて本物に会うことだ。
あぁ...ドッペルゲンガーが大量発生なんて、
どうしてこうなったんだ。
語り部シルヴァ