『灯火を囲んで』
乾いた肌に熱が差し込む。
静かに火花が弾けて地面に落ちてはゆっくりと消えていく。
花火で暖をとったことが今まであっただろうか。
それもこれも全部後輩が原因だ。
バイト上がりが珍しく一緒の時間になり
寝るまで暇だと話をしていたら花火をしたいと言い出した。
今は秋でもうシーズンは終わったと言っても聞かない。
こうなったら後輩の言うことに従うしか収める方法は無い。
それが今に至る。
ある程度楽しんで最後に線香花火をしている。
さっきまではしゃいでいた後輩も
小さな花火を静かに見つめている。
いつも元気いっぱいに開いている目も優しく少し閉じていて、淡い火花が反射している。
「またしようか。」
そう言うと後輩はいつものように
元気いっぱいに目を開いて絶対ですよと答えた。
語り部シルヴァ
『冬支度』
冬用の布団と洗濯した冬服をベランダに干す。
冷たい風が指先にささる。
もう指先が割れるのに怯える日が来てしまった。
最近天気が不安定で中々外に干せなかったけど今日はずっと晴れそうな空だ。
しかしもう寒い。少しベランダに出ただけで体が冷える。
体を動かすついでに掃除もしようかな。
ついでに換気も...
なんてことをしてたら部屋が一気に冷えた。
部屋着もそろそろ洗濯して用意しないと...
今日はとりあえず厚着してココアでも飲んで乗り越えよう。
30分ほどしか経ってないけど寒いから窓を閉めた。
語り部シルヴァ
『時を止めて』
すごく嬉しいいことだ。
高鳴る胸がどうにかなりそうだ。
好きな人に告白された。まさかの両思いだ。
あなたに振り向いて貰えるように
身だしなみとか体型維持とかすごく頑張った。
それが報われて好きな人が認知してくれた。
あぁ...告白だけでこんなに嬉しいのに
付き合えたらこれから何があるんだろう...
涙が出そうだ。
今はともかくこの気持ちを落ち着かせたい。
時間...止まってくんないかな...
今顔を見られたくないんだ。
語り部シルヴァ
『キンモクセイ』
いつも神出鬼没で
隣にいたはずなのに目を離せばどこかへ行ってしまう。
いるのはわかるのにどうも見つけられない。
求めれば求めるほど魅了される。
匂いだとか形だとか気がつけば魅了される。
虜になってしまう。
愛を伝える勇気が出ないけど、
いざ伝えようものならその時には既にもう居なくなる。
いなくなると匂いも色付いた風景もパッと消える。
きっと来年もまた来てくれる。
そう信じて来年を楽しみにして待つ。
あの脳裏にまで届く甘い香りを必死に思い出しながら。
語り部シルヴァ
『行かないでと、願ったのに』
心電図が一定の音を鳴らす。
足音や医療器具がガチャガチャとうるさい音が
聞こえるのに心電図の音が一番耳に残る。
看護師が名前を呼んでも返事は無い。
急いで医師を呼ぶ別の看護師。
まるでテレビを見てるかのように私は
ただ目の前の光景を眺めているだけだった。
あの時あなたの名前を呼べなかった。
返事が帰ってこなかったら私はどうにかなりそうだったから。
元気になって退院して一緒に
金木犀を見に行こうと約束したのになあ...
まだそばにいて欲しい。行かないで欲しい。
そんな願いも叶わない。
気分転換に一人で金木犀を見に行っても
約束が守られなかったからか花はみんな地面に散っていた。
散ったはずの金木犀から甘い香りが漂っている。
まるでまだあなたがそばにいるみたいだ。
語り部シルヴァ