『秘密の標本』
出来心だった。
完璧と言われるあのお嬢様の意外な一面を見てみたかった。
身寄りのない私を雇ってくれたお嬢様は何もかも完璧だった。
恐ろしいくらいに短所が無かった。
だからこそ意外な一面があればそれを知りたかった。
そんな思いで掃除といいながらあちこちを漁ってしまった。
ある日、ついに隠し扉のボタンを見つけて押してしまった。
普段は気づかないようなボタンは押すと
壁が人一人分通れるほどの道を隠していた。
静かにこっそりと歩く。
細く暗い道を、闇に飲まれそうな深さの螺旋階段を...
そしてひとつの扉が前にあった。
これを開ければ...恐る恐るドアノブに手を伸ばし
ゆっくりとひねる。
中には美しくも恐ろしく感じる標本が並べられていた。
昆虫に鳥、犬...そして人間も。
これ以上はまずい。
そう思い振り返るとお嬢様が満面の笑みで
両手で持つほどのハンマーを持っていた。
「あなたも綺麗に飾ってあげる。」
そう言って私にハンマーを振りかざした。
語り部シルヴァ
『凍える朝』
カーテンが輝いてる気がして目が覚める。
真っ暗な部屋なはずなのに目を凝らさなくてもよく見える。
異様に寒い。昨日は日中汗をか程度の温かさはあったはず...
足先が冷えてる。
寒い。もう秋の終わりの兆しが見えてきたかもしれない。
冬用の布団を用意しなきゃ...
顔を洗う水も氷のような冷たさでより目が冴える。
早くココアでも飲んで体を温めよう。
今年も冷える時期がやってきた。
それは同時に今年の終わりを知らせるようなもんだ。
少し寂しく感じる...寒いせいだろうな。
語り部シルヴァ
『光と影』
歩けばみんなに声をかけられ、
助けを求められれば全てをそつ無くこなし、
関わる人達の信頼は並以上。
妬むものはいるけれど、
そんな人とも仲良くしようとするもんだから
陰口を言う人は少ない。
まるで勇者みたいだ。
中学は気が合う友人として共に過ごして来たが
高校に入った途端激変した。
二人で話す暇なんて無くて君は申し訳なさそうに席を外す。
断るのが苦手な君はこれからも輝き続けるだろう。
けれど休みだけはどれだけ連絡が来ても
君はスマホを見ず同じ時間を一緒に過ごしてくれる。
「いつもごめんね。こんな時間しか合わせれなくて...」
「高校になったわけだし、
無理して合わせなくてもいいのに。」
申し訳なさそうに言う君に答えると
君はムッとした顔で「僕は君との時間が欲しいんだよ。」
なんて言うから影みたいな私を?
と笑いながら聞くと
「影がそばにいてくれないと光は輝けないんだよ。」
と顔を寄せて答える。その目に嘘は無いようだ。
君と私が別の性別ならこの先に進めたのかな。
語り部シルヴァ
『そして、』
辺りが連鎖的に爆発を起こす。
ここまで来れたのも奇跡だろう。
俺たちのボスがやられてしまった。
そのせいかアジトが自爆システムが作動し始めた。
準備段階の時点で爆発が始まってる。
カウントがゼロになったら…生きては帰れないだろう。
俺は一番最後に少しでも爆発を抑えるため
全員が避難したエリアを閉めていく。
全員無事に帰れそうだ。
最後の扉をロックしようとした時隊員のひとりが声をあげる。
「扉のシステムが爆破により下がりません!」
衝撃か反動か...いやそんなことはどうでもいい。
ここの扉を閉めない限り全員無事では済まないかもしれない。
だとすれば、やることはひとつ。
「みんなは下がってろ。」
扉のサイズに似た破片を何重にも重ねる。
「ここで俺が少しでも抑えている。
少しでも早く遠くに逃げるんだ!」
たじろぐ隊員たちに怒鳴る。
「早く逃げろ!」
葛藤しながらも隊員たちは走り出す。
そろそろか...隊員たちの顔がよぎる。
みんな今までありがとう。そして...
カウントがゼロになった。
語り部シルヴァ
『tiny love』
ベッドから吊るされたオルゴールメリーが
優しいメロディを奏でてゆっくり回る。
それを見ながらずっと微笑む。
可愛い。こんな天使が我が子なんて...
そう思いながら洗濯物をたたみながら子を見守る。
あ、今度は動くおもちゃを掴もうと
手足をゆっくり伸ばしている。
ずっと見守りたいくらい可愛い。
優しい日光が部屋を照らして部屋が暖かくなる。
どんどん心地いい温度になっていくのか
動いていた手足はゆっくりと降ろし動かなくなった。
はだけた布団を直して、
天使の寝顔を確認する。
本当に可愛いなあ。
オルゴールメリーを止めて、また見守る。
優しい温もりに包まれた部屋に私も眠気を誘われた。
語り部シルヴァ