『涙の理由』
「マスター、大丈夫ですか?」
マスターが涙していた。
私はロボットだから
マスターのこういった行動や感情は共感できない。
けれど画面に映っている再生数と
コメントが全て物語っているのかもしれない。
「あぁ、ごめんね!大丈夫だよ !
次もまたお願いするからそれまで待っててね!」
涙を急いで服で拭って泣き腫らした顔で笑顔で私に答える。
「...わかりました。
それまでは家事など済ませておきますね。」
マスターのありがとうを聞いて部屋を後にする。
ドア越しから溢れる涙を抑えきれないマスターの声が漏れる。
私はマスターの心は理解できない。
マスターがあそこまで涙するのもわからない。
もしかしたら私がもっと上手く歌えていたら
涙することもなかったかもしれない。
なのにマスターは全部自分が悪いように言う。
申し訳ないマスター。
私はその涙を拭えない。
だから...次はその涙を吹き飛ばすような力で
マスターの期待以上に応えます。
語り部シルヴァ
『コーヒーが冷めないうちに』
カフェで休憩中。一目惚れをした。
どんな人かわからない。
何が好きで何を飲むのか。
それでも私はこの人と話をしたくなった。
でも、話しかけれ引かれたらどうしよう?
でも、話しかけないと絶対後悔する。
頭の中で「でも」が論争を起こす。
今日はオシャレをしてるけど相手から見たらどうだろう...
次会えるのはいつだろう...
そう思いながら落ち着くためにコーヒーを一口。
さっき飲んだ時よりも温くなっていた。
よし、行こう。この熱が冷めたら終わりだ。
ゆっくりと席を立ち歩きながら呼吸を整える。
あ、あの!!
語り部シルヴァ
『パラレルワールド』
『やっば!遅刻遅刻!』
「ちょっとー!朝ごはんは〜!?」
『今日はいい!じゃ、行ってきます!』
「あっ靴紐が...」
「仕方ないこれで行こう!」 「念の為に結んで...」
「急げ!あっ...」 「よし、行くぞ!」
「あっぶな...やけにとばすトラックだな...」
「ってまずいまずい。急がないと!」
語り部
『時計の針が重なって』
夢でも見ていたようだ。
みすぼらしい衣服を纏ってお姉様たちの手のひらで踊る日々。
そんなある日お姉様たちが舞踏会に行ってしまった。
私も参加したかったけど、
残念ながら相応しいドレスを持っていなかった。
けれど魔法使いが私に素敵なドレスをくれた。
舞踏会に間に合ったものの、
踊る相手がいなくてただただ立つことしかできなかった...
けれど一人の男性が私に手を差し伸べてくれて二人で踊った。
沢山の人が私たちを見ていたかもしれない。
それでも私は一緒に踊ってくれたこの人しか
見れなかった気がする。
このままずっとこんな時間が続けばいい。
そんな夢も覚めてしまいそうで、私はその場から逃げ出した。
時計の針が重なって魔法が解けてしまう前に...
語り部シルヴァ
『僕と一緒に』
いつだって君は泣き虫だ。
メソメソすんなよと笑顔で肩を軽く叩くと決まって
「だって、でも、」なんて言う。
ウザったいとか思う人もいるだろうけど
君は昔からそうだから僕は全然気にしない。
それに、なんだかんだ君は僕と一緒がいいって言う。
そんなこと言われたら庇護欲?だっけか。
そんな感情も芽生えてしまうもんだ。
でもきっと疚しい気持ちがなかったら
君を助けもしないのかと言えば違うだろう。
僕も君と一緒がいい。
だから君も僕と一緒にこれからも進もう。
優しく微笑みながら君に手を差し出す。
僕の手を掴む君を見て悪戯げに「甘えん坊だなあ」
とからかってやる。
君は顔を真っ赤にしながらも繋いだ手を離す気配はなかった。
語り部シルヴァ