『ひとりきり』
夜が涼しくなってきた。
季節はもうすぐ暑さを忘れていくだろう。
やっと夏が終わる。
せいぜいする。
なんて思っていたがどうも心がザワつく。
焦燥感というか、心の中にあったモヤモヤが
はっきりとした穴が空いたというか。
涼しくなってきた分センチメンタルに
なりやすくなったんだろう。
元々友達がほぼいないのも理由だけど...
あー...なんだか肌寒いな。
さて、人肌恋しくなる前に明日から
衣替えの準備でも始めようか。
語り部シルヴァ
『Red,Green,Blue』
俺は1番上の兄。
下2人を守るためにいざと言う時まで待機している。
特に1番下は人から好かれやすい。
悪い虫を払うために見守っている。
私は真ん中の姉。
興奮しやすいお兄ちゃんと泣き虫な弟をいつもなだめている。2人とも私がいないといつも止まらなくなる。
そんな2人が大好きなんだけどね。
僕は1番下。
泣き虫だけどみんな僕のことを好いてくれる。
優しいのか都合のいいように使われているかは
わかんないけどね。
俺たち3人は個性がバラバラ。
でもなんだかんだ楽しい日々だ。
世話が焼ける2人。それでも2人の力になりたい。
僕ひとりじゃ何も出来ないけど、
2人の力を合わせればなんだってできる。
そう、僕らは3人で1人なんだから。
語り部シルヴァ
『フィルター』
これはいらない。消そう。
これは欲しい。付け足そう。
そんな取捨選択を繰り返して
自分が納得いくまでスマホをいじる。
原型が無いかもしれない。
それでもこれが可愛いと私が思う。
完成したからネットにあげる。
私の投稿に通知を付けているであろう人から
いいねが5、6個来る。
立て続けに「今日も可愛い!」
と薄っぺらいコメントが添えられる。
それでも承認欲求というのは満たされていく。
もっといいねやコメントが欲しい。もっと褒められたい。
そう思う私はまた別のポーズで自撮りを始める。
そしてまた欲しいと要らないを繰り返して
理想の可愛いを目指す。
語り部シルヴァ
『仲間になれなくて』
水の入ったバケツを個室の天井に向かって投げる。
ビシャビシャと中の水がぶちまけられる音が聞こえる。
するとクラスの一軍女子たちの甲高い笑い声がトイレに響く。
私は頬を無理やりあげて笑う。
個室に行こうとすると
女子の一人に呼ばれて私はそれについて行く。
教室に戻って話を聞いていると
ガラガラと音を立てて教室のドアが開く。
大きな音で教室内の生徒はほぼ全員ドアに視線を向ける。
びしょ濡れの君が教室に入ってきた。
「ちょっとぉ〜、ドブネズミが入ってきた〜」
「やだ〜不潔。ははっ」
一軍女子はそれを見て笑い、連れの男子は野次を飛ばす。
他の人は色んな思いを秘めながら見て見ぬふりしかできない。
君は何も言わず濡れた体を
カバンから取り出したタオルで拭き始める。
その姿を見た一軍女子はまた笑い出す。
ごめんね。君の仲間になれなくて。
語り部シルヴァ
『雨と君』
強い雨風で部活が休みになった。
元々幽霊部員だからあまり関係無いけど...
家にはまだ帰りたくない。
きっとあいつが母さんと一緒にいる。
あいつがいる時に帰ると機嫌を悪くして
俺や母さんに当たってくる。
それだけは避けたい。母さんはなんであんなやつのことを...
天気がいいならゲーセンとかに寄って時間を潰せれるけど
今日は台風のような天気だ。よく学校は一日やったもんだ。
時間をどうやって潰そうかと学校内を歩き回っていると
教室で同じクラスメイトが一人で本を読んでいた。
物静かでどこか儚げなクラスメイト。
雨が降っている窓を背景に本を読む君は
なんだか見惚れてしまう。
話しかけようとしたけど
それを邪魔するわけにはいかなかった。
話しかけるならまた明日だ。
(気をつけて帰ってね。また明日。)
声をかけず心で唱えて手を振る。
さて、どこで時間を潰そうかな。
雨の中また廊下を歩き始める。
外の雨音が聞こえるのに自分の足音だけが廊下に響いた。
語り部シルヴァ