語り部シルヴァ

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8/28/2025, 2:50:58 PM

『夏草』

青く生い茂る夏草。
昔は腹の高さまであったはず。
今じゃ膝よりも下になってしまった。

夏草をかき分けて進む時の青臭さとか
肌に擦れてくすぐったかったのを覚えている。
大人になった今はそんなことすることは無くなった。

大人だから当然...なんだろうか。
童心と一緒に大切なものも忘れてしまったような気がする。
子供の頃の無邪気さはある意味無敵だったんだなと
夏風に吹かれて
サラサラと音をたてる夏草を見て思う。

ちょうど夕日が沈み辺りが暗くなって時報が鳴る。
さ、もう帰ろう。

語り部シルヴァ

8/27/2025, 11:03:35 AM

『ここにある』

静かに行われると思っていた葬式は
想像以上に騒然としていた。
警察も参列者一人一人に事情聴取をしている。
お坊さんはこの状況でお経を読もうか迷っていそうだ。
今日はあの子が死んだ葬式の日。

順調に事が進むと思いきや、
あの子の心臓がくり抜かれているという話が上がった。
誰が言ったかは分からない。
けれど亡骸を持ち上げた時か
棺桶を持ち上げた時かに親族が参加して
その時パニックになって言い出したのだろう。

言っても聞かないからついに司法解剖をする医師が
わざわざ現地まで来て解剖の結果心臓が無くなっていた。
ただのパニックによる発作だと思っていた参列者も
ただ事じゃないと気付き最初に戻る。

みんな疲れている。
こんなこと早く終わらせて家で休んだ方がいい。
あの子はずっと家で眠っているのに。

語り部シルヴァ

8/26/2025, 10:33:21 AM

『素足のままで』

今日も暑い。ただセミの声が聞こえなくなった分
静かな日中になったなと感じる。
部屋の温度計は変わらず30を超えている。
それでも網戸からは涼しい風は吹くし肌は汗ばむこともない。

ふと思い立って庭に出ることにした。
さすがに外は暑い。
靴もサンダルが肌に密着していると熱される。
風だけが味方してくれてる。

いっそ脱ごうか。
そう思いサンダルをポイと脱いで庭を踏みしめる。
小さな砂利は少し痛むし風で揺れる草はくすぐったい。
それでも少し心地いいと感じるのはなぜだろう。

残暑。そんな言葉がよぎった。
素足から伝わるこれらは残暑なんだろう。
少し寂しくなる。
もう素足から熱を伝わるあの感覚も
また来年になってしまったんだ。

残り火に縋るようにこのままの時間を噛み締めた。

語り部シルヴァ

8/25/2025, 11:15:20 AM

『もう一歩だけ、』

もう疲れた。
面接も履歴書の制作も合否判定も全部疲れた。
精神面がもたない。
行きたいところも無いし内定は貰ったから
適当に選ぶのもいいのかもしれない。

本当に俺の行きたいところってどこなんだ?
俺にしか分からないとか今は気づいてないだけとか
わからないものはわからない。

けど...後悔はしたくない。
自分で言ってわがままだ。
これだけ内定貰ってるのもわがままだ。
だからこそ...自分が納得するまでやってみよう。

きっとこれを繰り返せば...本当に自分のしたいことや
自分の就きたい会社が見えてくるはずだから...

語り部シルヴァ

8/24/2025, 10:39:47 AM

『見知らぬ街』

ここはどこだろう?
確かあの人とデートの待ち合わせをしてたけど
あの人はやってこないし
帰ろうにもここはどこかわからないし...

日も暮れてきた...
交番でもあれば相談できそうだけどそれも難しそう...
お腹空いたなあ...色んな家から晩御飯の匂いがする。
肉じゃが、カレーライス...あぁ余計にお腹が空いてきた。

このまま私はどうなるんだろう...
家に帰れなくて死んじゃうのかな...?

「あ!おばあちゃんいた!」
その声と同時に手を掴まれる。
この子は誰だろう?それに私がおばあちゃん?

「大丈夫?怪我は無い?」
何が何だかわからない...私はただあの人と...

「おばあちゃん...おじいちゃんはもう居ないんだよ...」
わけがわからないまま連れていかれる。
けれど不思議と怖さは無い。
それどころか安心感があるその手は
どうも他人じゃない気がする。

この子は誰なんだろう。
今日のご飯は何かな。
あの人に...また会えるかな。

語り部シルヴァ

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