『Midnight Blue』
セミの歌も子供たちの無邪気な声も車や
バイクのエンジン音も全然聞こえない夜。
夜風が涼しくさっきまで寝ていた私はベランダの窓を開けて
網戸からすり抜けて吹く夏の夜風を浴びていた。
今何時なんだろう。
起きた時に携帯でも確認すればよかった。
けれどめんどくさくて水だけ飲もうと動いて今に至る。
網戸の隙間からは夜風だけで星や月の光はお邪魔してこない。
代わりに道路に転々と並ぶ街灯が
少し明るめの星のようで少し眩しい。
夜風と街灯の眩しさで少しずつ目が冴えてくる。
網戸も開けて外の様子を見る。
人ひとりいない。野良猫も虫もいない。
日中の暑さをすっかり忘れた世界はみんな寝静まっている。
私ももう一眠りしようか。
さっきまで目が冴えていたことを忘れてしまった私の体は
窓を閉めてもう一度ベッドに寝転がる。
眠気に誘われるように閉じていく瞼に
次は素敵な夢でも見れるといいなと願い深く息をした。
語り部シルヴァ
『君と飛び立つ』
"君とならどんなことだってできそうだ。"
"あなたとならなんだってできそう。"
"いじめから救ってくれた君と"
"一人だった私に寄り添ってくれたあなたと"
"辛い時はどんなことだって乗り越えてきた。"
"辛い気持ちの時は支え合ってきた。"
それでも...僕らはお互いとは別に薄い希望の筋があった。
家族だったりペットだったり....
それらが沢山崩れていくと...?
お互いがどれだけ支えようとも
目の前に広がる絶望の前には何も出来ない。
""ならいっそ...""
""二人で飛び立とう。""
『えー先日、○○高等学校にて
〇〇高の生徒とみられる遺体が発見されました。
死因は飛び降り自殺とのことです。』
語り部シルヴァ
『きっと忘れない』
「私の事なんかさっさと忘れてね」
あの教室で鼻声の君は言う。
夕焼けが世界を塗り潰す中悪かった視界に映ったのは
大粒の涙ボロボロと流して困ったように笑う君。
抱きしめたい。その一心で手を伸ばすも
君に触れることなく見慣れた天井が視界に広がる。
あぁ、またあの夢か。
学生時代の一番記憶に残ったワンシーン。
入学当初から仲良くなって付き合って...
そして卒業式の学生最後に別れを告げられた。
あの時はカッコつけて「わかった。」
とだけしか答えなかった。
本当はすごく嫌だった。
別れを切り出す理由とか
別れるのは嫌だとか
言いたいことは言えばよかった。
その後悔が、今でも夢に見る。
「夢ならさっさと覚めてくれ。」
ため息と独り言がこぼれて片手で顔を覆う。
目覚めたはずの世界が夢のように感じる。
これから何年先も忘れることはない。
せめて君の笑顔を記憶に残したかった。
語り部シルヴァ
『なぜ泣くの?と聞かれたから』
母は昔から私が感情的な一面を見せると
「なんでそう思ってるの?」と問いかけてくる。
最初こそそりゃこっちのセリフだと思った。
今思えば自分の感情的な部分を
説明できるようにしようとしていたのだと思う。
結果はというと私は感情的な一面を隠すのが上手になった。
仏頂面とか無表情とか言われるようになったけど
私が一番生きやすい方法がこれに落ち着いた。
母に何を言われても感情的にならなくなった。
母は後悔してるのかどうでも良くなったのか
私が無表情になってからは「なぜ?」
と問いかけてこなくなった。
ある日母が我慢の限界だったのか
怒りに任せて私を怒鳴ってきた。
私はただただ落ち着いて
「なんで怒ってるのに泣いてるの?」
と問いかけた。
残念ながら母は答えられず、
私は次の日家を出ることにした。
語り部シルヴァ
『足音』
次は移動教室だ。休憩時間の中次の教室へと目指す。
君は先に行ったかな...?
キョロキョロと視線を動かしながら歩いていると
人混みの中に君を見つけた。
一人で歩くその背中も小さくも凛としていて可憐だ。
ふといたずらしたくなって君の後ろから手で視界を塞ぐ。
君は仕方なさそうにため息をつく。
「全く...君でしょ?」
自信ありげに答えられてパッと手を離す。
「すごい...よくわかったね?」
「君の足音をどれだけ聞いていると思ってるの?」
そう言って振り向いた君は背伸びをして
頭をポンポンと軽く叩く。
この人混みの中僕の足音を聞いていた...?
そんなまさかと思いつつも
君ならやってみせそうだなあと思ってしまう。
「さ、早く行こ。休憩時間終わっちゃう。」
足を進める君の声が遠くなっていくのを感じて
慌てて君の隣を目指して急いだ。
語り部シルヴァ