『きっと忘れない』
「私の事なんかさっさと忘れてね」
あの教室で鼻声の君は言う。
夕焼けが世界を塗り潰す中悪かった視界に映ったのは
大粒の涙ボロボロと流して困ったように笑う君。
抱きしめたい。その一心で手を伸ばすも
君に触れることなく見慣れた天井が視界に広がる。
あぁ、またあの夢か。
学生時代の一番記憶に残ったワンシーン。
入学当初から仲良くなって付き合って...
そして卒業式の学生最後に別れを告げられた。
あの時はカッコつけて「わかった。」
とだけしか答えなかった。
本当はすごく嫌だった。
別れを切り出す理由とか
別れるのは嫌だとか
言いたいことは言えばよかった。
その後悔が、今でも夢に見る。
「夢ならさっさと覚めてくれ。」
ため息と独り言がこぼれて片手で顔を覆う。
目覚めたはずの世界が夢のように感じる。
これから何年先も忘れることはない。
せめて君の笑顔を記憶に残したかった。
語り部シルヴァ
『なぜ泣くの?と聞かれたから』
母は昔から私が感情的な一面を見せると
「なんでそう思ってるの?」と問いかけてくる。
最初こそそりゃこっちのセリフだと思った。
今思えば自分の感情的な部分を
説明できるようにしようとしていたのだと思う。
結果はというと私は感情的な一面を隠すのが上手になった。
仏頂面とか無表情とか言われるようになったけど
私が一番生きやすい方法がこれに落ち着いた。
母に何を言われても感情的にならなくなった。
母は後悔してるのかどうでも良くなったのか
私が無表情になってからは「なぜ?」
と問いかけてこなくなった。
ある日母が我慢の限界だったのか
怒りに任せて私を怒鳴ってきた。
私はただただ落ち着いて
「なんで怒ってるのに泣いてるの?」
と問いかけた。
残念ながら母は答えられず、
私は次の日家を出ることにした。
語り部シルヴァ
『足音』
次は移動教室だ。休憩時間の中次の教室へと目指す。
君は先に行ったかな...?
キョロキョロと視線を動かしながら歩いていると
人混みの中に君を見つけた。
一人で歩くその背中も小さくも凛としていて可憐だ。
ふといたずらしたくなって君の後ろから手で視界を塞ぐ。
君は仕方なさそうにため息をつく。
「全く...君でしょ?」
自信ありげに答えられてパッと手を離す。
「すごい...よくわかったね?」
「君の足音をどれだけ聞いていると思ってるの?」
そう言って振り向いた君は背伸びをして
頭をポンポンと軽く叩く。
この人混みの中僕の足音を聞いていた...?
そんなまさかと思いつつも
君ならやってみせそうだなあと思ってしまう。
「さ、早く行こ。休憩時間終わっちゃう。」
足を進める君の声が遠くなっていくのを感じて
慌てて君の隣を目指して急いだ。
語り部シルヴァ
『終わらない夏』
部屋の暑さで目が覚めて外に出る。
入道雲、ギラギラしてる太陽、
足から伝わるアスファルトの熱。
日陰で休んで家に帰ってお風呂で汗を流して
クーラーの効いた部屋でご飯を食べる。
こんな夏をずっと繰り返している。
最初こそ焦燥感に駆られていた。
けれどそんなの夏の暑さで考えてる余裕も無くなった。
本当なら何かしら動かなきゃいけない。
わかってる。わかってるけど...
全部...夏のせいだ。
何も無い何も感じない私の夏はずっと
終わらないのかもしれない。
こんな夏なら...早く終わらせたいんだけどね。
クーラーが日中に溜まった熱をどんどん冷ましていく。
日付はとっくに変わっている。
クーラーを切ってもう寝よう。
また...最初に戻るんだろうなあ。
語り部シルヴァ
『遠くの空へ』
「よし...じゃあやろか。」
おじいちゃんの言葉で
ゴロゴロしていた体を起こして川へ向かう。
川についてお盆でお供えしていた花をそっと川に流す。
昔からの習慣だ。
おじいちゃんはおばあちゃんを亡くしてから
ずっと一人で暮らしている。
歳は自分の年齢に六十を足した歳。
もう随分と歳をとっているがイメージする老人よりも
背骨は真っ直ぐだしボケてはいない。
今日はそんなおじいちゃんの奥さん...
おばあちゃんのお盆を終わらせた。
おじいちゃん曰く
「お坊さんにお経を呼んでもらって
孫の顔も見れたからきっと満足して帰っただろ。
帰る時に何も無いのは寂しいから
こうやって川を使って花を届けるんだ。」
とのこと。
おばあちゃんは俺が物心付く前に
亡くなっちゃったからどんな人かは覚えてない。
でも俺の顔を見て満足してくれるなら毎年会いに来るよ。
どうかあの綺麗な花がおばあちゃんに届きますように。
流れていく花におじいちゃんも俺も手を合わせて目を閉じた。
「ほな...帰ろか。」
おじいちゃんに返事して川を背にして歩き始めた。
バイバイおばあちゃん。また来年。
語り部シルヴァ