語り部シルヴァ

Open App
8/18/2025, 11:03:10 AM

『足音』

次は移動教室だ。休憩時間の中次の教室へと目指す。
君は先に行ったかな...?
キョロキョロと視線を動かしながら歩いていると
人混みの中に君を見つけた。
一人で歩くその背中も小さくも凛としていて可憐だ。

ふといたずらしたくなって君の後ろから手で視界を塞ぐ。
君は仕方なさそうにため息をつく。
「全く...君でしょ?」
自信ありげに答えられてパッと手を離す。

「すごい...よくわかったね?」
「君の足音をどれだけ聞いていると思ってるの?」

そう言って振り向いた君は背伸びをして
頭をポンポンと軽く叩く。
この人混みの中僕の足音を聞いていた...?
そんなまさかと思いつつも
君ならやってみせそうだなあと思ってしまう。

「さ、早く行こ。休憩時間終わっちゃう。」
足を進める君の声が遠くなっていくのを感じて
慌てて君の隣を目指して急いだ。

語り部シルヴァ

8/17/2025, 10:48:43 AM

『終わらない夏』


部屋の暑さで目が覚めて外に出る。
入道雲、ギラギラしてる太陽、
足から伝わるアスファルトの熱。
日陰で休んで家に帰ってお風呂で汗を流して
クーラーの効いた部屋でご飯を食べる。

こんな夏をずっと繰り返している。
最初こそ焦燥感に駆られていた。
けれどそんなの夏の暑さで考えてる余裕も無くなった。

本当なら何かしら動かなきゃいけない。
わかってる。わかってるけど...
全部...夏のせいだ。

何も無い何も感じない私の夏はずっと
終わらないのかもしれない。
こんな夏なら...早く終わらせたいんだけどね。

クーラーが日中に溜まった熱をどんどん冷ましていく。
日付はとっくに変わっている。
クーラーを切ってもう寝よう。

また...最初に戻るんだろうなあ。

語り部シルヴァ

8/16/2025, 11:44:30 AM

『遠くの空へ』


「よし...じゃあやろか。」
おじいちゃんの言葉で
ゴロゴロしていた体を起こして川へ向かう。
川についてお盆でお供えしていた花をそっと川に流す。
昔からの習慣だ。

おじいちゃんはおばあちゃんを亡くしてから
ずっと一人で暮らしている。
歳は自分の年齢に六十を足した歳。
もう随分と歳をとっているがイメージする老人よりも
背骨は真っ直ぐだしボケてはいない。

今日はそんなおじいちゃんの奥さん...
おばあちゃんのお盆を終わらせた。

おじいちゃん曰く
「お坊さんにお経を呼んでもらって
孫の顔も見れたからきっと満足して帰っただろ。
帰る時に何も無いのは寂しいから
こうやって川を使って花を届けるんだ。」
とのこと。

おばあちゃんは俺が物心付く前に
亡くなっちゃったからどんな人かは覚えてない。
でも俺の顔を見て満足してくれるなら毎年会いに来るよ。

どうかあの綺麗な花がおばあちゃんに届きますように。
流れていく花におじいちゃんも俺も手を合わせて目を閉じた。

「ほな...帰ろか。」
おじいちゃんに返事して川を背にして歩き始めた。
バイバイおばあちゃん。また来年。

語り部シルヴァ

8/15/2025, 10:46:14 AM

『!マークじゃ足りない感情』

今はお盆の期間だ。
ご先祖さまや亡くなった家族が帰ってくるとはよく聞く。
よく聞くけれど...

「やっ!また会えたね!」
つい先月亡くなったいとこが
こっちに帰ってくるなんて誰が予想しただろう。
それも俺にしか見えてない。

「いやーお盆って本当に帰って来れるんだね。
なんでかこっちだけど(笑)」
そう言っていとこはまるで生きてるかのように陽気に話す。
こっちは聞きたいことが山ほどあるって言うのに...

「とりあえずお母さんたちに...」
「言っても信じてくれないでしょ(笑)このままでいいよ。」
いとこはそう言って俺の周りをぐるぐると回る。

いやほんとに聞きたいことがあるんだ。
俺のお父さんがいとこのお母さんとデキてたこととか
今も俺の両親がそれについてこっそり喧嘩してることとか...

いとこがこっちに帰ってきたことで
全ての疑問が確信に変わった気がした。

外は入道雲が低い声で唸っている。
もうすぐ嵐が来そうだ。
いとこが嵐に飛ばされないか心配だ。

語り部シルヴァ

8/14/2025, 10:48:15 AM

『君が見た景色』

君からの手紙を開く。
"これを読んでるということは私は..."
そんな冒頭から始まる手紙。

内容は私が記した場所に向かって欲しいとのこと。
早速出かける準備をする。
玄関を出て、角を曲がって、
いつもの駄菓子でアイスを買って...
そのまま真っ直ぐ、商店街を突き抜けて公園へ。
そこで休憩をして学校の正面の道を通って
3つ目の信号を曲がって...
田んぼに挟まれた
緩やかな曲線を描いた道をふちに沿って歩いく。

その先の十字路を曲がって、横を向けば...

「帰ってきちゃったぞ...?」
手紙を読み直したが間違ってはいない。
次のページがあり読んでみる。

"おかえり。私が君と見た景色。綺麗だったよ。
私との思い出を糧に前に進めますように。"

...帰って食べようとしてたアイスも
ドロドロに熔けてしまった。
君と一緒に食べていたアイスクリーム。
君との時間と同じようにもう元には戻らないだろう。

それでも...君の分まで俺は進まないと。
荷物を降ろしてもう一度アイスを買いに玄関を飛び出した。

語り部シルヴァ

Next