『足音』
次は移動教室だ。休憩時間の中次の教室へと目指す。
君は先に行ったかな...?
キョロキョロと視線を動かしながら歩いていると
人混みの中に君を見つけた。
一人で歩くその背中も小さくも凛としていて可憐だ。
ふといたずらしたくなって君の後ろから手で視界を塞ぐ。
君は仕方なさそうにため息をつく。
「全く...君でしょ?」
自信ありげに答えられてパッと手を離す。
「すごい...よくわかったね?」
「君の足音をどれだけ聞いていると思ってるの?」
そう言って振り向いた君は背伸びをして
頭をポンポンと軽く叩く。
この人混みの中僕の足音を聞いていた...?
そんなまさかと思いつつも
君ならやってみせそうだなあと思ってしまう。
「さ、早く行こ。休憩時間終わっちゃう。」
足を進める君の声が遠くなっていくのを感じて
慌てて君の隣を目指して急いだ。
語り部シルヴァ
『終わらない夏』
部屋の暑さで目が覚めて外に出る。
入道雲、ギラギラしてる太陽、
足から伝わるアスファルトの熱。
日陰で休んで家に帰ってお風呂で汗を流して
クーラーの効いた部屋でご飯を食べる。
こんな夏をずっと繰り返している。
最初こそ焦燥感に駆られていた。
けれどそんなの夏の暑さで考えてる余裕も無くなった。
本当なら何かしら動かなきゃいけない。
わかってる。わかってるけど...
全部...夏のせいだ。
何も無い何も感じない私の夏はずっと
終わらないのかもしれない。
こんな夏なら...早く終わらせたいんだけどね。
クーラーが日中に溜まった熱をどんどん冷ましていく。
日付はとっくに変わっている。
クーラーを切ってもう寝よう。
また...最初に戻るんだろうなあ。
語り部シルヴァ
『遠くの空へ』
「よし...じゃあやろか。」
おじいちゃんの言葉で
ゴロゴロしていた体を起こして川へ向かう。
川についてお盆でお供えしていた花をそっと川に流す。
昔からの習慣だ。
おじいちゃんはおばあちゃんを亡くしてから
ずっと一人で暮らしている。
歳は自分の年齢に六十を足した歳。
もう随分と歳をとっているがイメージする老人よりも
背骨は真っ直ぐだしボケてはいない。
今日はそんなおじいちゃんの奥さん...
おばあちゃんのお盆を終わらせた。
おじいちゃん曰く
「お坊さんにお経を呼んでもらって
孫の顔も見れたからきっと満足して帰っただろ。
帰る時に何も無いのは寂しいから
こうやって川を使って花を届けるんだ。」
とのこと。
おばあちゃんは俺が物心付く前に
亡くなっちゃったからどんな人かは覚えてない。
でも俺の顔を見て満足してくれるなら毎年会いに来るよ。
どうかあの綺麗な花がおばあちゃんに届きますように。
流れていく花におじいちゃんも俺も手を合わせて目を閉じた。
「ほな...帰ろか。」
おじいちゃんに返事して川を背にして歩き始めた。
バイバイおばあちゃん。また来年。
語り部シルヴァ
『!マークじゃ足りない感情』
今はお盆の期間だ。
ご先祖さまや亡くなった家族が帰ってくるとはよく聞く。
よく聞くけれど...
「やっ!また会えたね!」
つい先月亡くなったいとこが
こっちに帰ってくるなんて誰が予想しただろう。
それも俺にしか見えてない。
「いやーお盆って本当に帰って来れるんだね。
なんでかこっちだけど(笑)」
そう言っていとこはまるで生きてるかのように陽気に話す。
こっちは聞きたいことが山ほどあるって言うのに...
「とりあえずお母さんたちに...」
「言っても信じてくれないでしょ(笑)このままでいいよ。」
いとこはそう言って俺の周りをぐるぐると回る。
いやほんとに聞きたいことがあるんだ。
俺のお父さんがいとこのお母さんとデキてたこととか
今も俺の両親がそれについてこっそり喧嘩してることとか...
いとこがこっちに帰ってきたことで
全ての疑問が確信に変わった気がした。
外は入道雲が低い声で唸っている。
もうすぐ嵐が来そうだ。
いとこが嵐に飛ばされないか心配だ。
語り部シルヴァ
『君が見た景色』
君からの手紙を開く。
"これを読んでるということは私は..."
そんな冒頭から始まる手紙。
内容は私が記した場所に向かって欲しいとのこと。
早速出かける準備をする。
玄関を出て、角を曲がって、
いつもの駄菓子でアイスを買って...
そのまま真っ直ぐ、商店街を突き抜けて公園へ。
そこで休憩をして学校の正面の道を通って
3つ目の信号を曲がって...
田んぼに挟まれた
緩やかな曲線を描いた道をふちに沿って歩いく。
その先の十字路を曲がって、横を向けば...
「帰ってきちゃったぞ...?」
手紙を読み直したが間違ってはいない。
次のページがあり読んでみる。
"おかえり。私が君と見た景色。綺麗だったよ。
私との思い出を糧に前に進めますように。"
...帰って食べようとしてたアイスも
ドロドロに熔けてしまった。
君と一緒に食べていたアイスクリーム。
君との時間と同じようにもう元には戻らないだろう。
それでも...君の分まで俺は進まないと。
荷物を降ろしてもう一度アイスを買いに玄関を飛び出した。
語り部シルヴァ