『真夏の記憶』
いつもの通学路に屋台が並ぶ。
制服姿の友達はみんな私服や浴衣を着ている。
空は屋台の煙が薄く伸ばされ提灯がぼんやりと照らし、
雲が近くまで降りてきているようだ。
カステラ、焼けた鉄板に引かれた油、
虫除けの匂いがどこかしらから匂う気がする。
...昔の夏の思い出。
それだけで早く覚めたい気分だった。
「やっぱり人がいっぱいだよね。」
限りなく再現された声が聞こえて振り向く。
鮮やかな紅色の浴衣を着た君が隣に立っていた。
隣に映える赤い華。
この夢に咲く自分の罪。
語り部シルヴァ
『こぼれたアイスクリーム』
「私...あと一ヶ月の命なんだ。』
唐突に彼女が告白する。
エイプリルフールにしては早いよ!?
とか
しっかりしろ!エアコンとアイスを食べた我々ならまだ...!
とかふざけた方がいい。
なのにいつも軽く弾む口は全く動かない。
おい、彼女が暗い話をしてるんだ。笑わせろ。
笑顔にさせるためにこのムードを...!
いや...無理だ。彼女の真剣な表情を俺には崩せない。
「ねえ、大丈夫?」
彼女の言葉にはっとする。
すごく、ものすごく時間が止まっていたようだった。
さっきまで手に持っていたターコイズグリーンに
茶色が混ざった宝玉はドロドロに溶けて俺の腕から滴る。
「どうやら...アイスにも刺激が強すぎたみたいだ。」
結局、君を困った顔にしか今の俺には出来なかった。
語り部シルヴァ
『やさしさなんて』
私は優しさなんて嫌いだ。
優しくするから付け上がられてバカを見る。
優しさを本心と気付かず勝手に裏切られたと
勘違いするバカができる。
優しいねって褒める所がないから
代名詞を困り顔で言ってくる。
沢山の優しさで沢山傷ついた人を見てきた。
人を傷つけるなら私はそんなのいらない。
そんなのが無くても私は生きていける。
それと...
「そっか、周りを傷つけまいと考えてあげてるんだね。
君もすごく優しいじゃん。」
私の考えを勝手にいい方向へ解釈して決めないで。
自分から距離を置くのも
お前みたいなやつに変に解釈されたくないからなんだ。
だから私は優しさなんて嫌いなんだ。
語り部シルヴァ
『風を感じて』
今、風を感じてる。
全身を吹き抜ける風が汗ばんだ肌を撫でる。
暑さの中に涼しさが混じる。
暑いけど...こういうのはいい。
夏でしか感じられない。
熱が、風が、汗が。
夏が自分の体を燃やす。
...夏のことを考えると余計に暑くなる。
付けていた扇風機の風力を更にあげる。
最大風力。
あー...涼しい。
今でしか感じられない風は暑さも吹き飛ばしてくれた。
語り部シルヴァ
『夢じゃない』
スマホの通知で目が覚める。
"おはよ。起きてる?"
いつになく脳が目覚めて
スマホをポチポチと打って返信する。
"おはよ!今起きたところだよ!早起きしたの?"
時刻は九時過ぎ頃。思った以上に寝ていたようだ。
伸びをしているとまたスマホが鳴る。
"ううん、七時頃起きたよ。
結構ねぼすけなんだね(笑)"
なんだか恥ずかしくなってくる。
これから生活習慣見直そうかな...
なんて思っているとふと現実味が増してくる。
寝起きの感覚もクーラーの冷たさも
窓の眩しさもきちんと感じる。
ここまで来たら頬をつねる必要は無いだろう。
「...ほんとに付き合えたのか。」
夢じゃない。こんなに朝起きて
嬉しさが込み上げてきたことはあっただろうか。
今ならなんでも出来そうだ。
もう一度思い切り伸びをして
君への返信を考えることにした。
語り部シルヴァ