『こぼれたアイスクリーム』
「私...あと一ヶ月の命なんだ。』
唐突に彼女が告白する。
エイプリルフールにしては早いよ!?
とか
しっかりしろ!エアコンとアイスを食べた我々ならまだ...!
とかふざけた方がいい。
なのにいつも軽く弾む口は全く動かない。
おい、彼女が暗い話をしてるんだ。笑わせろ。
笑顔にさせるためにこのムードを...!
いや...無理だ。彼女の真剣な表情を俺には崩せない。
「ねえ、大丈夫?」
彼女の言葉にはっとする。
すごく、ものすごく時間が止まっていたようだった。
さっきまで手に持っていたターコイズグリーンに
茶色が混ざった宝玉はドロドロに溶けて俺の腕から滴る。
「どうやら...アイスにも刺激が強すぎたみたいだ。」
結局、君を困った顔にしか今の俺には出来なかった。
語り部シルヴァ
『やさしさなんて』
私は優しさなんて嫌いだ。
優しくするから付け上がられてバカを見る。
優しさを本心と気付かず勝手に裏切られたと
勘違いするバカができる。
優しいねって褒める所がないから
代名詞を困り顔で言ってくる。
沢山の優しさで沢山傷ついた人を見てきた。
人を傷つけるなら私はそんなのいらない。
そんなのが無くても私は生きていける。
それと...
「そっか、周りを傷つけまいと考えてあげてるんだね。
君もすごく優しいじゃん。」
私の考えを勝手にいい方向へ解釈して決めないで。
自分から距離を置くのも
お前みたいなやつに変に解釈されたくないからなんだ。
だから私は優しさなんて嫌いなんだ。
語り部シルヴァ
『風を感じて』
今、風を感じてる。
全身を吹き抜ける風が汗ばんだ肌を撫でる。
暑さの中に涼しさが混じる。
暑いけど...こういうのはいい。
夏でしか感じられない。
熱が、風が、汗が。
夏が自分の体を燃やす。
...夏のことを考えると余計に暑くなる。
付けていた扇風機の風力を更にあげる。
最大風力。
あー...涼しい。
今でしか感じられない風は暑さも吹き飛ばしてくれた。
語り部シルヴァ
『夢じゃない』
スマホの通知で目が覚める。
"おはよ。起きてる?"
いつになく脳が目覚めて
スマホをポチポチと打って返信する。
"おはよ!今起きたところだよ!早起きしたの?"
時刻は九時過ぎ頃。思った以上に寝ていたようだ。
伸びをしているとまたスマホが鳴る。
"ううん、七時頃起きたよ。
結構ねぼすけなんだね(笑)"
なんだか恥ずかしくなってくる。
これから生活習慣見直そうかな...
なんて思っているとふと現実味が増してくる。
寝起きの感覚もクーラーの冷たさも
窓の眩しさもきちんと感じる。
ここまで来たら頬をつねる必要は無いだろう。
「...ほんとに付き合えたのか。」
夢じゃない。こんなに朝起きて
嬉しさが込み上げてきたことはあっただろうか。
今ならなんでも出来そうだ。
もう一度思い切り伸びをして
君への返信を考えることにした。
語り部シルヴァ
『心の羅針盤』
「うーん...」
コンパスは完全に壊れてしまったようだ。
海に出る時は常に持ち歩いていたコンパスも
今回の嵐で動かなくなった。
レーダーも...イカれている。
幸い船の帆は嵐の来る直前に急いで畳めたから破れてない。
問題は一面海の真ん中でどこを目指すべきか。
完全に遭難状態。陸地をいち早く見つけなきゃ...
どこに...どっちへ...
焦ってもただただ時間が過ぎてしまうだけだ。
一度目を瞑って深呼吸する...
考えても仕方ない。
嵐は来なさそうだ。
なら、帆を張って船の進みたいように進ませよう。
心の羅針盤。なんてね。
天気は良好。波は穏やか。
さ、進みたい方向へ進め!
語り部シルヴァ