『またいつか』
「もうこんな時間だね...」
沈んでいく太陽を見ながらあんたは話す。
特にすることがなかった俺を拾っていろんな所へ連れ回した。
服屋にカフェ、そこら辺をブラブラ歩いて
最後は高いところから沈んでいく夕陽を見ている。
インドア派な俺からすればオシャレなんてわからないしちょっと高めなご飯を食べるよりかは
カップ麺を食べた方が効率が良い。
眩しいだけの太陽を見て何が楽しいのか
あんまりわからなかった。
そんな俺といて楽しいのかと聞いてみると
キョトンとした顔で
「そんなの楽しいに決まってるじゃん。
私のわがままに全部付き合ってくれるの君くらいだし。」
夕陽に反射して笑顔がより眩しく感じる。
「俺なんかで良かったらまたついて行くよ。
捻くれもん連れて楽しいならね。」
「うん!またいつか!」
外はつまらん。けどこいつに振り回されるのは悪くない。
こいつといると世界が眩しくなる気がする。
きっと夕陽のせいだろうな。
語り部シルヴァ
『星を追いかけて』
最後のコードを鳴らす。低い音がじんわりと消えていく。
通しで何とかギターを弾き終えた。
ひと息ついて楽譜をめくってどこで音が濁ったか確認する。
通しで弾き終えた。けれど
どの音も一番いい音で出せたわけじゃない。
これくらいで満足しているならこれ以上上手くなれない。
私はもっと上を目指したい。
音が濁った部分はどれも私が苦手なコードの部分だ。
ギターを触り始めて一ヶ月弱。
慣れるまでひたすら指に
コードの配置と切り替える癖を覚えさせるんだ。
こんな調子じゃ君に聴かせられない。
もっと上手になって...いつか世界に知られるようになって...
遠くにいる君にまで認知されるんだ。
語り部シルヴァ
『今を生きる』
過去に罪を犯した。
大切な人を傷つけた。
だから俺はその日からその人と距離を置いた。
それが正しいからだと当時は思っていた。
結局は君の隣にいるついでに俺が
後ろ指を刺されるのが嫌だったからだ。
結局その人は俺という頼れる存在が居なくなって自殺した。
その知らせを受けたのは既に君の火葬が済んだ後で、
俺に伝えないように釘を刺していたらしい。
俺は人の人生を終わらせるような失敗をした。
本当は君が生きて俺が死ななければならないのに...
君の告白に自信を持って「喜んで」と答えれなかった。
その選択肢が今を作った。
今はもう君はいないけど、俺はこれからも生きる。
君と一緒に過ごす予定だった明日を君の分も生きるために。
語り部シルヴァ
『飛べ』
勢いよく走り出し崖スレスレで飛ぶ。
大きな水飛沫を上げて水面が激しく揺れる。
「ぶはっ!あー!気持ちいいー!」
飛び込んでまもなく顔を出して大きな声でいとこは笑う。
「なー!早く来いよー!」
夏休みでおばあちゃん家に来たら偶然いとこも来てたようで
こっちに着くや否やいとこに海に行こうと手を引っ張られた。
海で泳ぐことには慣れているが飛び込みに関しては全くで
恐怖心しか勝たない。
「いやいや、さすがに無理だって」
「なんでー!俺ができたんだからできるってー!」
いとこは随分と自分勝手で昔からよく振り回されてきた。
だが今回ばかりは無理だ。
「お前ならできるよー!大丈夫ー!」
ほんと好き勝手言いやがって...
「死んでも文句言うなよー!」
やけくそになって走り出す。青い海がどんどん広がっていく。
「今だー!飛べー!」
いとこの声を聞いて精一杯地面を蹴って飛ぶ。
鼻に海水が入って少し痛いが、どことなくスッキリした。
「な?大丈夫だっただろ?」
いとこが笑顔で近づいてくる。
またいとこに振り回されたが...まあ悪くないかもしれない。
普段やらないような体験にいとこの笑顔を見れたから
深く考えないようにした。
語り部シルヴァ
『special day』
音楽を流しながら衣をつけた鶏肉を油に落とす。
揚げる音が食欲をそそる。
あぁ...お腹がすいてきた...
5つ、10つとどんどん揚げていく。
今食べたら美味しい...絶対に美味しい。
唐揚げに伸ばす手は止めて作業する手を止めずに揚げる。
今日は特別な日。
そんな日は盛大に好きなものを作って好きなだけ食べる。
カロリーだとか栄養バランスだとか明日のこととか気にしない。
明日は休みだからいっぱい食べていっぱい寝るんだ。
そして何より今日は...給料日だ。
全部揚げ終えてご飯とお茶を用意する。
「よし、じゃあいただきます!」
これが私の特別な日の過ごし方。
語り部シルヴァ